幽霊の噂は、五月病の蔓延とともに広まった。白い病衣を着た少女が、昼となく夜となく、突如現れては消えるのだという。壁を抜けてくるのだという。目撃した者はみな、異様な悪寒と目眩と虚脱感で倒れてしまうのだという。このところ、そうした学生たちで医務室は賑わい、寮で寝込む者も増え、重症の者は附属病院にまで運び込まれた、とのことだ。
「五月病の言い訳ちゃうん」めっきり出席者の減った教室で永留が切り捨てた。「あー、なんかたるいなー、講義さぼりたいなー、せや、幽霊見たことにして部屋で寝とこ、みたいな」
「発端の幽霊話はどこから出てきたんだよ」
「そら、病院の寝間着着とったんやったら、入院患者が散歩しとったんやろ」
「学校内を?」
「そおゆうこともあるやろ」
「医学部の外まで?」
「壁抜けた、いいマス!普通の人間、壁抜ける、ないデス!」
「そこらへんは尾鰭がついとるんやって」
「入院患者なら」と、唯人。「年中居るはずだけど、なんで今頃噂になってるんだよ」
「せやから、五月病やて」