大勢の人の前に立つのは、とても緊張する。誰かが言っていた、どんな人間でも緊張はするものだと。だが初めての経験になる私にとっては、周りが思っている以上に震えていた。
大丈夫、大丈夫、そう言い聞かせて、壇上のすぐ脇に移動する。
観客席に顔を向ければ、応援してくれる人たちの顔が見えた。
嬉しそうな顔、私と同様に強張っている顔など、普段は見せない表情を皆していた。彼ら、彼女らのためにも、頑張らなければ。
そう意気込むと、かえって力んでしまい、逆に手が震えてきた。手を握りしめて胸の前に置く。目を瞑り、大きく息を吸い込んだ。そしてゆっくり息を吐き出しながら、今ま出会った人たちのことを思い出した。
自分の新しい技術的発見を一緒に喜んでくれた人。それを発表にまで持っていこうと促してくれた人。前向きな提案をしてくれた誰もが、希望に満ちた輝いた顔をしていた。
その想いに応えられるだろうか――。
『あたしは好きだな』
不安で心がいっぱいになりかけていると、過去の自分に大きく影響を与えた少女の言葉が脳内に響いてきた。人懐っこい彼女と出会えたのは、私にとっては幸運であり、大きな転機だった。
深呼吸をして、心を落ち着かせる。私には見守ってくれている人がいる。皆、大丈夫だと言ってくれた。だからしっかりとした足取りで壇上にあがろう。
辺りは暗くなっている。明るい色の変化が主としたこの技術には、適した時間になっていた。
この壇上の先に何が待ち受けているかわからない。
過去に囚われて立ち止まるのか、未来を見据えることになるのかもわからない。
それでも今を一生懸命生きることには変わりなかった。
さあ、行こう。
過去の私が踏みだし、未来の私となるために。