第五章 犯人の場合
祖母の一周忌は、祖母が所有する離島の別荘で行われることになった。携帯電話の電波も届かない、船もチャーターしないといけない場所。そこで一週間、拘束される。まともな社会生活を送っている人間ならば、ごめん被りたい条件だろう。そんな条件であっても、呼び出された全員が別荘に揃った。なぜならば、
「ここに来ることが遺産相続の条件なんて、ばぁさんの考えてることはわかんねぇなぁ」
叔父さんがぼやく。
そう、祖母は遺産相続の条件を、一周忌に参列し、一週間別荘に滞在することとしていたのだ。金にがめつい我が皇一族の面々に、きちんと自分の死を悼んで欲しかったのだろう。形式だけでも。
あとはまあ、花嫁修行中という名目で働いていない私を始め、お飾りの社長など社会から一週間ぐらいいなくなっても困らない人間ばかりの集まりなのだが。
とはいえ、この条件は私にとっても好都合だ。外部には連絡が取れない、周りは海に囲まれている。この辺は荒れやすいし、泳ぐことも、ゴムボートなどで渡ることも難しい。船は一週間後まで迎えに来ない。そう、言わば、
「しかし、見事なクローズドサークルですね」
考えていたことを言われ、思わずそちらを見る。他の親族たちも怪訝な顔で発言者を見た。
皇家の人間ではない、へらへらした若い男。きちんと喪服に身を包んでいるが、髪の毛は寝癖なんだかパーマなんだかよくわからないし、その印象は胡散臭い以外の何物でもない。何せ、職業が、
「何が言いたい、探偵」
探偵だというのだから。
「いえ。別に。ただ皇紫乃さんが俺を呼んだということは、何かあるんじゃないかなーと思ってるんですよ」
肩をすくめる。
「まったく、ばぁさんは。なんだってあんたみたいのを」
「それはこちらの台詞ですね」
そう、この自称探偵・渋谷慎吾はおばあさまからの招待状を持っていたのだ。生前、おばあさまが世話になったらしく、一周忌にも来て欲しいと、遺言書の中に組み込んでいた。彼の場合は仕事として。その分の報酬は遺産から引かれることになる。
先ほど、散々叔父や父たちが文句を言っていたが、 弁護士先生が招いたと言うし、何よりもその招待状が おばあさまの直筆のものだったからこちらも認めざるを得なかった。 探偵、ね。その響きに思うところがないわけでもないが、実際の探偵は孤島の別荘で謎解きをするわけで はないことを、私だって知っている。