TEMPLATE - [PROJECT] TEMPLATE - [PROJECT]

あまぶんウェブショップ

販売は2021年7月31日をもって終了しました。
たくさんのご注文をありがとうございました。
  • その男、名探偵につき

    小高まあな
    1000円
    エンタメ
    ★推薦文を読む

  • *ミステリ、推理ものではありません!*

    名探偵という生き物がいる。
    それは職業ではない。
    事件を呼ぶ、謎を解き、それを喰らい、生きている。
    そんな生き物だ。
    その証拠に、名探偵の行くところ事件があり、死体がある。
    これはそんな名探偵と、名探偵の効力に巻き込まれた人々の物語である

     謎ではなく××を解く、恋物語


    WEB掲載分(http://freedom.lolipop.jp/novels/kyu/hon/)に2章追加。プラスαで探偵の日記も入っています。

    第1章 九官鳥の場合
    第2章 刑事の場合
    第3章 検事の場合
    第4章 弁護士の場合
    第5章 犯人の場合
    第6章 名探偵の場合
    第7章 依頼人の場合


    文庫/186ページ

試し読み

第五章 犯人の場合
祖母の一周忌は、祖母が所有する離島の別荘で行われることになった。携帯電話の電波も届かない、船もチャーターしないといけない場所。そこで一週間、拘束される。まともな社会生活を送っている人間ならば、ごめん被りたい条件だろう。そんな条件であっても、呼び出された全員が別荘に揃った。なぜならば、
「ここに来ることが遺産相続の条件なんて、ばぁさんの考えてることはわかんねぇなぁ」
叔父さんがぼやく。
そう、祖母は遺産相続の条件を、一周忌に参列し、一週間別荘に滞在することとしていたのだ。金にがめつい我が皇一族の面々に、きちんと自分の死を悼んで欲しかったのだろう。形式だけでも。
あとはまあ、花嫁修行中という名目で働いていない私を始め、お飾りの社長など社会から一週間ぐらいいなくなっても困らない人間ばかりの集まりなのだが。
とはいえ、この条件は私にとっても好都合だ。外部には連絡が取れない、周りは海に囲まれている。この辺は荒れやすいし、泳ぐことも、ゴムボートなどで渡ることも難しい。船は一週間後まで迎えに来ない。そう、言わば、
「しかし、見事なクローズドサークルですね」
考えていたことを言われ、思わずそちらを見る。他の親族たちも怪訝な顔で発言者を見た。
皇家の人間ではない、へらへらした若い男。きちんと喪服に身を包んでいるが、髪の毛は寝癖なんだかパーマなんだかよくわからないし、その印象は胡散臭い以外の何物でもない。何せ、職業が、
「何が言いたい、探偵」
探偵だというのだから。
「いえ。別に。ただ皇紫乃さんが俺を呼んだということは、何かあるんじゃないかなーと思ってるんですよ」
肩をすくめる。
「まったく、ばぁさんは。なんだってあんたみたいのを」
「それはこちらの台詞ですね」
そう、この自称探偵・渋谷慎吾はおばあさまからの招待状を持っていたのだ。生前、おばあさまが世話になったらしく、一周忌にも来て欲しいと、遺言書の中に組み込んでいた。彼の場合は仕事として。その分の報酬は遺産から引かれることになる。
先ほど、散々叔父や父たちが文句を言っていたが、 弁護士先生が招いたと言うし、何よりもその招待状が おばあさまの直筆のものだったからこちらも認めざるを得なかった。 探偵、ね。その響きに思うところがないわけでもないが、実際の探偵は孤島の別荘で謎解きをするわけで はないことを、私だって知っている。

その男は、「お約束」招く。そう、まるで厄災であるかのように

渋谷慎吾の行くところ、事件は起き、そしてあっさりと解決される。
探偵ものの「お約束」案件は必ず起こるといって過言ではなく、ヒロインは巻き込まれ、刑事たちは彼を敵視する……

帯でもWebカタログでも作者が予防線を張っていらっしゃるので、まさかこの小説を推理ものだと思って購入される方はいらっしゃらないと思うのですが、謎解き方面の楽しみはたしかにない。
常日頃、数ある探偵物語の「暗黙の了解」に「ですよね〜お約束」とツッコミを入れつつ読む向きには、かなり満足度の高い楽しい物語です。
そしてそしてこの渋谷氏とヒロインの愛の行方……「名探偵パロディもの」の外見にだまされてはいけない(?)

不器用で、哀しく、でも幸せな絆の物語ですよ。

宮田秩早