王子の不運は大地に愛されなかったことである。或いは愛されすぎた為であった。戦いの場は、何頭も、また何台も通り過ぎる馬と車輪に荒らされていた。深い轍の、より深く刻まれた溝に、シンジェルは運んだ足の踵を捕らわれた。よろめいたシンジェルに、グレンバーンは身体ごとぶつかり押し倒した。馬乗りになり、力の限り殴りつけた。下から突き出された切っ先に、敢えて自らの腕を貫かせてへし折った。
「加護が無かったのは、貴様の方であったな!」勝ち誇りグレンバーンはシンジェルの髪を掴み、何度も、何度も地に打ち付けた。
「何故、最初に喉を狙わなかった?或いは心の臓を!殺しが怖いのか?馬鹿が!だから貴様は腑抜けだというのだ!興奮に任せてグレンバーンは、重ねて拳を振るい、シンジェルを振り回した。眼を開きながら何も見てはいなかった。聞こえてもいなかった。
ようやく息を切らし、虚脱の時が過ぎたのち、組み敷いた敵手からの抵抗が全く無いことにグレンバーンは気づいた。「シンジェル?」
返答は無かった。
「どうした、シンジェル?何とか言ってみろ。また生意気な口を利いてみせろ」