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あまぶんウェブショップ

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  • ひがんおくり

    椎乃みやこ
    600円
    エンタメ

  • 小学五年生のとき、私は「常露町」に引っ越してきた。
    クラスに馴染めない私に声をかけてくれたのは、すずかちゃんという女の子だった。

    彼女は気づいてくれたのだ。
    私の、耳の、秘密を。

    こんな話をしても誰も信じてくれないでしょうね。
    けれどこれは、私が体験した本当の話。

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第一話「すずかちゃん」

 こんなことを話しても、誰も信じてくれないでしょうね。
 けれどこれは、私が体験した本当の話。

 小学五年生の頃、私は都会からある地方の小さな町に引っ越してきた。夏休みが終わり、新学期に入ったときだ。日中は茹だるような暑さが残っていたが、けたたましく鳴くアブラゼミの声にヒグラシが混ざっていた。
 その町は、「常露町」と書いて「じょうろまち」と呼んだ。
 常露町から大橋を渡った隣町は、そこそこメディアに取り上げられる観光地だ。車中心の社会である。しばらく電車で通勤していた父が、顔を青くしながら久方ぶりに車のハンドルを握っていた。常露町に引っ越してからは、私に内緒でペーパードライバー講習に通っていたそうだ。
 常露町はいろいろなものが足りなかった。まず、電車の少なさに驚いた。バスも駅も少ない。人も少ない。自然と移動は自転車が多くなった。可愛い雑貨店やお洒落なカフェもない。代わりに複合型の大型スーパーやホームセンターがあった。
 そもそも、ちょっと坂道を登っただけで山が見える所だ。田圃や畑を持つ旧家があるかと思えば、新築が並ぶ住宅街もある。真新しい家の背景にそびえ立つ山が不思議だった。過ごしているうちに、この町には背の高いビルがないと気づいた。空の広さを初めて知った。
 常露町には足りないものがたくさんあって、知らないものもたくさんあった。街角でおばあちゃんが開いているたこ焼き屋がおいしかった。駄菓子屋に吠える犬がいた。看板犬のくせに営業妨害だと、飼い主のおじさんにいつも叱られていた。好奇心から知らない道を自転車で走っていたら、迷子になって途方に暮れたこともある。
 この町に来る前には、経験できなかったことだ。
 学校は嫌いではなかった。初日は不安で押し潰されそうになったけれど、心配をよそにあっさり受け入れられた。都会の暮らしはどうだったとあれこれ聞かれたのは最初の一週間だけ。そのうち誰も聞かなくなった。「転校生」という新参者に飽きたのだ。
 新しい玩具を見るような目で話しかけてくるクラスメイトたちが、日を追うごとに一人一人減っていく。好奇の視線を注がれなくなる。興味が薄れていく。「静かだね」「お洒落かと思った」「もっと都会の話を聞きたかったのに」と去っていった。
 ふと、周りに誰もいなくなってから気づいた。
 あぁ、ここには友達がいないんだ。

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