「それなら、海賊ごっこ遊びをしようよ〜」
提案したのは、ケビンだ。アオリーヌはその話に乗った。
「いいわね、それにしましょ。じゃあ、はい! 私は海賊船リーヌ号の船長、アオリーヌ!」
アオリーヌは肩のパフスローブをいからせながら、船尾楼の端まで歩くと、ぱっとふり返ってみせた。その軽やかな身のこなしは、まるで映画の女優のよう。
「『私は、女海賊アオリーヌ! はるか東のはてに眠る、秘宝を探しにいかないか、諸君!』……ってことで、早い者勝ちよ。皆は何になりたい?」
真っ先に手を上げたのは、マイだった。
「私は、おいしいクッキーをつくるのが、得意ネ。だから、料理人になって皆を応援するネ」
「きゃー! 心強いわ、マイ。ありがとう」
アオリーヌはマイを引きよせると、肩をぽんとたたいた。
「『マイくん、君はとても腕利きの料理人だ。リーヌ号にふさわしい。歓迎しよう!』」
「『お目にかかれて光栄ですネ、アオリーヌ船長! かならず、お宝を手に入れてやりましょう!』」
アオリーヌを真似て、台詞っぽい言葉を使いつつも、マイは照れ笑いを隠せない。とてもかわいい。
「つぎは、おいらだー!」
ケビンは、サンヤー号乗組員の一人の声真似をしてみせた。
「『わしは、伝説の釣り人、ダミー。わしの手にかかれば、釣れない魚などないねぇ! 料理人マイよ、案ずることはない。食材はわしがたんまり用意しよう』」
にごった声も、きょろきょろした身動きも、ダミー副船長そっくりだ。アオリーヌが腹を抱えて笑う。
「ひきょうよ、ケビン! ダミーさんの名前を使うなんて」
「えー、別にいいだろ。だって、ダミーさんはダミーなんでしょう? ひょっとすると本名は、ケビンかもしれな〜い」
「まあ、いいわ。ケビンは釣り人で決定ね。それで、ミズカはどうする?」
「ええと……」
さっきから考えているのだが、答えが思いつかない。マイが助け船を出してくれた。
「ミズカは、放課後も塾に通うくらい、たくさん勉強してかしこいネ。だからきっと、航海士がお似合いネ!」
「いいわねー! 航海士ミズカ、ぴったりよ」
なるほど、航海士という選択肢もあったのか。
期待に応えようと思って、ミズカも姿勢を正した。アオリーヌに敬礼してみせる。
「『海賊船リーヌ号の航海士、ミズカです。どんな海域も、冷静にきりぬけてみせます! よろしくお願いします』」
マイもアオリーヌも拍手して、ミズカを迎える。