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あまぶんウェブショップ

販売は2021年7月31日をもって終了しました。
たくさんのご注文をありがとうございました。
  • 短編集月と街灯

    こうげつしずり
    600円
    純文学
    ★推薦文を読む

  • 『僕が一度も寂しいと思ったことがなかったのは、あなたがいてくれたからだったんですね』

    小説サークル『海と空と夜』初の短編小説集。

    Web上で公開している短編作品を中心に、新作を加えて発行します。
    純文学のような雰囲気のものから、ほのぼの、童話風、ファンタジーなどテイストは様々。
    一番長いものでも4000字以内の短い作品ばかりですので、初めての方や忙しい方にもおすすめです。

    ●リボン&ポストカード付(初版のみ)
    パッケージの写真は↓のページにて確認できます。
    https://umisorayoru.booth.pm/items/2695466


    ●収録作品

    海辺の三兄弟
    月と街灯
    金魚の森
    田んぼの空
    夏の残り香
    葉の手紙
    つばさのゆくえ
    あなたはエンゼルフィッシュ
    執事が見た夢
    紙風船と万華鏡
    飛行機雲の奇跡
    デクレシェンドの街
    夜行
    たった一秒間のロマンス

試し読み

表題作『月と街灯』より抜粋


「ねえ、あなたはそんなところに独りでいて、寂しくないの?」
「僕は街灯ですから、ここにいることだけが仕事です。寂しいと感じたことはありません」
「そう、そうなの……。私はね、どきどき寂しくて寂しくてどうしようもないときがあるの。そういうときは地上を見るようにしているわ。人間たちが私を見て、きれいだって言ってくれるから。そうすると、寂しいけど、もう少しがんばろうって思えるのよ」
 街灯は、自分よりもずっと年上の月のことを思った。今までの街灯には想像することすらできなかったが、月は本当に長い間、ずっとひとりで空にいたのだろう。
「あなたがいてくれてよかった。ここにあなたがいてくれる限り、私は寂しくないもの」
 そう言って、月は小さく笑った。そして次に口を開いたときには、いつもと変わらない彼女の声に戻っていた。

 それからの日々はあっという間に過ぎた。街灯が設置されてから何十年もの時が経ち、古くなってしまった街灯は、ついに撤去されることになった。
 昼間のうちに撤去され、街灯はどこかに運ばれていく。空を見上げても、月の姿はどこにもなかった。
 もう月に会うことは出来ない。そう思うと、街灯は生まれて初めて寂しさを覚えた。
「僕が一度も寂しいと思うことがなかったのは、あなたがいてくれたからだったんですね」
 街灯は、月に感謝と別れの言葉を贈った。
 その言葉が月に届いたかどうかはわからないけれども。

行間さえ愛おしい、選択の物語

14つの短編でできています。
詩のようなものもあれば、童話のようなお話もあります。
少し寂しいお話もあれば、コメディもあります。
行間さえ愛おしいと思いました。
伝えるべき部分はきっちり書かれていて、あとの想像は読者に任されている、その塩梅が絶妙でした。
私はこの本を『選択の物語』だと読みました。ふとしたきっかけで、忘れなくなるくらい気になる選択肢が現れて。どうしようかと揺れている心情描写はとてもリアルでした。
気がつけば、一緒になって考えていました。それくらい親近感がわくお話が多かったです。
コンパクトでありながら、面白さがぎゅっとつまった濃厚な作品でした。

新島みのる

読んだあとに、こらえている。

ひたすらに、ひたむきで、いい本だなあ、と思う。
きれいで、こわい。こわくて、さびしい。さびしくて、きれい。

サークル名「海と空と夜」そのまま、そのままの風景のスケッチがいとしい。
ああ、そのままでいいのだ、と。「海と空と夜」のように。
だきしめたい、だきしめてほしい一冊。
リボンでくるまれたその姿は、贈物みたいで、自分への贈物なのだと思う。

あまぶんで買えるのは5冊だけ。
いまこの本を読めるのは世界で5人だけ。
どんなひとに読まれるのだろう、贈られるのだろう、だきしめられるのだろう。
読んだあとに、夜空を眺めたくなる、誰かをおもいたくなる、とくべつな本だと思います。

にゃんしー

自分を肯定するちから

 本作に収められた短編は、いずれも「肯定するちから」に満ちている。

 こどもたちは、立ち止まったまま悲しむばかりの母を置いて、自身を信じて旅立つ。
 あるいは、街灯は月と相対し、みずからを卑下しない。
 また、田舎から都会に出てきた少年は、自身を矯めることなく、習慣の違う都会でやっていきたいと願う。
 夜行列車に乗った「ちい」は、一瞬のきらめきを見て、そのきらめきにみずからが与えた価値に、目を閉じる。

 14編、他者に依存せざるを得ない者、かよわき者、おぼつかない感覚を題材にしながらも、ふしぎな「確かさ」に満ちているのは、どの作品の登場人物たちにも「自分を肯定するちから」が与えられているからだろう。

 そして、自分を肯定するちからを持つ者は、驚くほど素直に「他者を肯定する」。

 そう、きっと本作はそういうメッセージが込められた物語集であると思うのだ。
 

宮田秩早