地下鉄の駅を降りて、閑静な住宅街を十分ほど歩いた角にリナちゃんの家はある。
正確には、角を曲がるまでは隣の家とほとんど繋がった造りの塀で、角を曲がった向こうに玄関があり、そこからがリナちゃんの家だ。でも、曲がるどころか十数メートル先から歩いてくるだけでも、そこが否応なくリナちゃんの家だということがわかる。
ジャングルのように生い茂った何かの樹、そこから垂れ下がる蔓や、蔓以外の人工物と思われるロープ、ロープともいえない長い布、角に立つ交通安全のためのミラーを覆い隠すように飛び出した大きな金属片。アニメ「風の谷のナウシカ」で腐海が砂漠や村に迫る様子のごとく道路を侵食したゴミ袋、ゴミ袋、それさえ突き破って飛び出したゴミの数々。生ぐさい臭いは、風向きによっては、その姿が見えるより先にもう感じられる。
リナちゃんの家は、ゴミ屋敷だ。
角を曲がったところの入り口から玄関までは、おそらく本当は石畳の短い通路になっている。おそらく、というのは、そこももれなくゴミに埋め尽くされているからだ。とはいえ、ゴミ屋敷の住人は、えてしてそれを自分では、ゴミと思っていないことが多い。
慎重に合間を縫って進み、チャイムを押す。ギンゴン、と濁った音。風向きなど関係なく、ここまで来ると、何かが腐ったような臭気が全身を覆う。 それでも、マスクはしないと決めていた。
(表題作「ラフレシアの家」より)