(「君と夢見るスポットライト」より)
私たちはここで空を見上げるのが好きだった。色も、雲の形も、光の降り注ぎ方だって毎日違う。今日はまるで綿菓子のような、ふわふわで甘そうな雲が浮かんでいる。つかめたらなと思い手を伸ばしたところで、隣からぐぅとおなかの鳴る音が聞こえた。
「副部長、なにか食べ物を持っていないか」
「チョコとポテチがあります」
「素晴らしいチョイスだ」
彼が部長で私が副部長。そう呼び合ってはいるが、これは正式な部活ではないし同好会ですらない。メンバーは私たちだけ。家に帰りたくない二人がだらだらと放課後を過ごす会。
帰宅したくない部と命名したのは御堂だ。晴れている日はこうして旧校舎の屋上に忍び込むことが多かった。部室のような感覚なのかもしれない。普段は生徒の立ち入りを禁止して施錠されているから、職員室でこっそりと鍵を『借りて』使わせていただいている。雨天の日は図書室で読書をしたり、ファーストフード店でしゃべったりと、活動内容はさまざまだ。
まだ桜色がひらひらと踊っている頃、私は一人だった。
必死に勉強して進学した高校は両親の望むレベルには達していなくて、兄と比較する言葉を浴びせられる日々がつらく、だんだんと帰宅時間が遅くなっていった。やりたい部活や習い事も見つからず、目的もないまま誰もいなくなった教室にいつまでも残る日々。選択肢を増やすためにバイトでもしようかと、スマホで求人情報を検索しているときだった。
「伏見、帰らないの?」
いつも友人に囲まれているクラスの中心人物、という印象を抱いていた。そんな御堂に声をかけられたものだから非常に驚いた。
「御堂、くん? こんな時間になにしてるの」
「それはこっちのセリフ。俺はちょっと先生と話してただけ」
机の横に引っ掛けてあったバッグを手に取ったから、帰るのかなと思っていたのに。なぜだろう、私の隣の席に腰を下ろしてしまった。
「もしかして家に帰りたくないとか?」
ぎくりと体が硬直して、目が泳いでしまう。
「どうしてそう思うの?」
質問に質問で返すのはずるいとわかっていた。
「俺も同じだったから」