ききまつがいファミリー
ききまつがい、という本がある。聞き間違いがたくさん収録されたこの本は、聞き間違い、を「ききまつがい」と言いまつがえた話からこのタイトルがついていたように記憶している。我が家も大概、この「ききまつがい」が発生する家族である。その中でも、印象的だったある夜の話をしよう。
夕飯の時だった。我が家は夕飯時にテレビを見る家庭で――番組自体は見ていたり見ていなかったりする――その日もテレビがついていた。確か水曜日、当時やっていたのがドラゴンボールだったかワンピースだったかは忘れてしまったが、確か、八時からの歌番組がついていた。
くしくも、平井堅の「POP STAR」が流行っていた頃である。ランキング形式だったその番組で、画面内の平井堅が「キラキラのポップスター」と歌いながら踊っていた。それを見て、父がぽつりと一言。
「ワシな……これ、キラキラのポスターやと思っとったんや……」
キラキラのポスター。言葉に矛盾はないが、どうにも平井堅のイメージではない。今脳内に浮かんでいるのはマツケンサンバである。きらっきらの衣装を身にまとった、暴れん坊将軍のポスター。ていうか父よ、この歌、このあと「羽を広げ、魔法をかけてあげよう、君だけに」と続くんだが、ポスターがかける魔法って何だ。
「お父さん! そ、それはないわ」
当時箸が転げてもおかしい思春期だった私がほとんど条件反射で吹き出し、母もケラケラ笑っていた。トシ君の反応については覚えていない。この後ダイチ君が放った一言が、あまりに衝撃的すぎたからである。
「せやで! キラキラのパスタやで」
一瞬時が止まった。今現在私の脳内を支配しているのは、某リバーをオーバーするシェフである。きらっきらのパスタ。すげえ高いところから塩こしょうしそう。ついでに、すげー高そう。もっと言うなら、おいしくなさそう。
箸が転げてもおかしい年頃の姉、もはや撃沈である。ご飯どころではなくなってしまった、ある夜のききまつがいであった。