鉢の外から無数の目がこちらを見ている。それらはすべて自分とは違う存在を見ている、好奇心の塊であった。 同じ形、同じ人間なのに、どうしてそんな目で見てくるの。そんな問い掛けすら届かない。時折、それらの中でより汚らわしいものもあった。これは、悪意に満ちたもの。
特異な存在、たったそれだけで鉢の中へ閉じ込められ、そして見世物にされていた。
何度も外へ逃げようとしたけれど、この頑丈な鉢は自らの力ではびくともしない。ひ弱だと思い知らされた気がした。そうしているうちに、逃げることを止めてしまった。
もうどれくらい物のように扱われ続けたのだろうか。この冷たい鉢の中で一生を終えるのだろうか。絶望が頭の中を占めていた。考えるだけ無駄、外へ出ることなんて叶いもしない。
ならばせめて、輝かしく見てくれる存在が一人でも現れてくれればいいのに。それくらい、願ってもいいかな。 ふと視線を外に向けると、今日はいつになく騒がしい。
「うわっ!」
「ぎゃー」
捕らえた人たちの叫び声。恐怖の混じるその声を聞いた好奇心の塊は、この場からどんどん逃げていく。
見たことのない光景をただ眺めていた。しばらくするとそこに残っていたのは、倒れて動かない汚らわしいものだった塊と、彼らを剣で斬ったと思われる人の立っている姿。
その人は剣を収め、倒れている塊の懐から何かを取り出していた。それからこちらを向く。輝かしい瞳が、ニコリと微笑みを浮かべながらこちらへ近付いてくる。踵を鳴らす音がとても凛々しい。
そんな姿に惚れ惚れしていると、しゃがんでいるこちらに目線を合わせるためにその人が膝を付く。
「はじめまして、金魚姫。あなたを助けに来たの」
心地よく響く女性の声で、金魚姫、そう呼ばれた。特異とする力によってそう呼ばれている。金魚という生き物は素敵なものらしいが、同じように鉢の中でしか生きられない。それが嫌だった。
この力があれば、誰もが万能を得る。そんなでたらめが広がっていた。
けれども、彼女は違って見える。この力を求めず、助けるという言葉に嘘偽りはないと思われる。けれども、金魚姫という言葉がどうも引っ掛かる。
「……あ、りがとう」
「とても素敵な声。その声であなたの名を聞かせて」