週末の解放された時間。すでに気分良く笑顔でいる人たちは移動を始めている。
その中に、まだあまり飲んでいない状態の俺も混ざっている。
いい店知っていますよ、と先日までこの場所が近所だった同期の宏介の案内により、このほろ酔い集団は小洒落た店へと入っていく。
到着したその場所は所謂パブと呼ばれる場所で、カウンターテーブルの並ぶ洋風の立ち呑み屋のような印象を受けた。
席の準備のために少し待たされ、準備が終わると入り口付近の席に案内される。ドリンクとフードのメニューを渡されてグループになりながらそれを眺める。
しかし俺は見事反対側になってしまい、文字が上手く読めない。おまけに、見たことがない文字列が並んでおり、何がなんだか全く理解できなかった。
四苦八苦して反対側から読んでいたら、誰かが店員を呼んだようで注文を取り始めた。あぁどうしよう、と内心慌てていると、ふとテーブルの上に置かれていたポップが目に入る。
勢いのあるデザインをしたそれには『サイダー』と書かれており、美味しそうだなと即座に思った。俺は即座に手にし、店員の方へ向けて注文する。
「これください!」
少し離れた距離にいたため、俺の方をじっと見てからメモを取っていた。
他にご注文はありますか、と聞かれたため、俺の順番は終わったようで手に持っていたものをテーブルに戻した。
店員に近い人が簡単なつまみをいくつか頼み、そうして店員は去っていった。
「頼んだやつ何?」
「え? 知らない」
少し離れたところにいた、同期の航が俺の手にしていたポップを手にして確認する。
「アップル、サイダー……?」
「なんか美味そうだなって思った」
「あぁ、それか」
俺の隣にいた宏介は、久々に見たといった様子でそれを見ていた。
「イギリスのりんごのビールみたいなやつだよ。ビールとはまた違うんだけどね」
「うぉっ、まじか」
「知らないで頼んだのか」
「だって胃袋が欲してたから」
そうは言ったものの、俺はビールだけはほとんど飲めない。多くの人が喉越し云々と言っているが、その前に敏感な舌がその味を無視できずに不快感だけが残ってしまう。だからものぐさなとき以外は別のものを注文している。
「お待たせいたしました」
八人分のドリンクが一気に運ばれ、適当にテーブルへ乗せられていく。バケツリレーの要領で次々と回していく。