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あまぶんウェブショップ

販売は2021年7月31日をもって終了しました。
たくさんのご注文をありがとうございました。
  • エバーグリーン

    みどり(原案・校正・協力), 伴美砂都(構成・文)
    800円
    純文学

  •  学校事務職員のみどりは、自分のいる場所に漠然とした違和感をもちながらも、毎日を淡々と過ごしていた。
     やがて季節の巡りとともに、変化は訪れる。周りの環境にも、みどり自身にも。
     だれの目にも留まらないかもしれない、けれど確かにここにある、日々を描いた物語。

試し読み

 校舎に沿って植えられた桜が満開に咲くのはほんの一週間ほどで、四月の半ばにも届かぬうちにもう花は散り、いつしか気まぐれに降った春の雨に追われるように落ちた花弁が、遊歩道の隅に茶色く縮こまる。頭上にはすぐ葉が茂り、少しずつ強くなってくる日差しを透かす。
 散っちゃったね、と毎年だれかが言う。そしてすっかり緑になってしまえば、歩くとき見上げる人も少ない。ああ、緑になったな、と思いながら、わたしはそこを通る。


 立志小学校は、新興住宅地を中心とした校区のほぼ真ん中にある。校舎はコンクリートの打ちっぱなしで、外から見ると学校というよりは背の低いビルみたいに見える。教室はオープンスペースで、廊下はむかしながらのゴムのような素材ではなく、ぜんぶフローリング。赴任したときにはびっくりしたが、今の小学校は、こういうデザインのところが多いみたいだ。昇降口の扉はオレンジ色と黄緑色に塗り分けられていて、丸い窓がついている。
 立志、という名前は、明治時代に学制が公布されて全国に小学校がたくさんできた頃には、あちこちでみられた学校名なのだそうだ。職員室の隅でほこりをかぶっていた郷土史に、そう書いてあった。
 その当時は、市内にも立志小学校という学校があった。でも、こことは別の場所だ。この学校ができたのは、今から十数年まえ。宅地開発に伴って新しく校区をつくるとき、今はもう市内に存在しない立志という名前をなぜかつけた。だから、むかし立志小学校だった学校は今は別の名前になっていて、むかし存在しなかったこの学校は、今もう全国にもあまり残っていない、立志という名でここにある。
 大空のもと こころざし立てて、という校歌の歌詞は歌い出しのそこだけおぼえていて、後ろに行くほど曖昧になっていく。