「言ったよ。今だって責めてないじゃないか。ニュアンスがずれて、勘違いしてたら困るから」
「勘違い? 勘違いって、なに? わたしの感覚とデータが食い違ってるって意味?」
「それは」
三ツ葉の言葉が濁った。
「そんなの、とっくにわかってるよ! わたしの感覚はおかしいよ! 誰にも理解不能だよ! みんなわかってくれないもん! 嫌われたことだってあったよ! 中学それで絶交、で! もう、もう、こ、怖くて……だから自分の思ってること、言わないようにして。言いたいこと、たくさんあるのに、なんて伝えればいいのか……わたし、伝え方、忘れちゃって、もう、自分でも、言いたいのに……」
なに言ってんだろ、わたし。三ツ葉の知らない過去話を持ちだしたところで、意味わかんないだけなのに。
あの出来事があったからわたしはコミュ障になりましただなんて、そんなの言い訳にしかならない。
ああでも、こんなに睨まれてる。三ツ葉があんな目するの、初めてだ。
怖い。
三ツ葉が怖いんじゃなくて、この状態から脱しようとするわたしが怖い。
あとさき考えずに防波堤向かって走ればいいのに。そうするんじゃなくて、本心をぶつけたくて仕方がないのだ。〈彼女〉と同じことをして、関係をぶち壊そうとしてる自分が、こわい。
思考回路上で逃亡しているこのあいだ、三ツ葉は視線を逸らすことなくわたしを見つめていた。
「み、三ツ葉、だって……」
嫌われるんだろうな。
心のなかで吐息を洩らした。思い出がめぐっていく。走馬灯だ。
些細なことでケンカ、お別れ。おしゃべりできない。そしたらさすがに立ち直れる気がしない。わたしにはそんな体力、もうない。
ならばわたしが耐えて、このままの関係でいればいい。それだけのことなのに。
決壊させたくなかった。
なにを決壊させたくないの?
自分なのか関係なのか。
もうわからないのだ。
ただ伝えたい。
だって。
「三ツ葉だって、自分のこと、話してほしいよ」
三ツ葉はかけがえないから。
結局わたしは、三ツ葉を知らない。