四條綴(しじょうつづる)の目の前には、青い海がある。その海面を滑るようにして白い波が寄せては返し、照りつける太陽の光を波飛沫がきらきらと反射する。抜けるような夏の蒼穹は色濃く、水平線の上にはボリュームのある入道雲が我が物顔で鎮座していた。
綴はパラソルの庇護下から一歩踏み出した。足の裏から伝わるのは、直射日光に炙られた白い砂の熱だ。吹き付ける潮風が磯の香りを運んでくる。その向こうから手を振る人影があった。
「綴さーん! こっちに来て一緒に遊びませんかー?」
左右に広がる砂浜のその先、海辺の水をつま先で蹴りながら、女神が眩しい笑顔を浮かべている。
否、彼女??片平雪乃は驚くべきことに人間だ。
生まれついて持った白く長い髪に、ハイビスカスの髪飾りが愛らしいコントラストを描いている。雪肌を惜しげもなく晒しているビキニ姿に、彼女本来の慎ましさを表すような黄色のレースパレオがまたよく似合っている。
いくら自制しても、網膜に焼き付いて離れないその美しい佇まいに、綴は緊張から細く長い溜息をついた。
??一体、どうしてこうなったのか?
事の発端は、一昨日に遡る。