終末を題材にしたアンソロジー。
とはいえ、どちらかというと前向きな作品が多い印象でしょうか。あれですよ、ティプトリーjrの「たったひとつの冴えたやりかた」みたいな。(※アンソロ全体のふんわりとした印象から連想したものです)
全作は文字数の関係で無理なので(申し訳ない)いくつかピックアップしてご紹介してみます。
古戸マチコさん「あくまのコントン」
可愛いしゃべり方に騙されてはいけない。彼はやると決めたらやるあくまだ。わりとミニマムな話から、さいごにぐわっと風呂敷が広がるところがいいと思います。
夜野せせりさん「しるし」
明日亡くなるひとのしるしが見える少女と友人の物語。ある日、目にするすべての人々にその印が見えた……なにかが起きる、その予兆はふたりだけの胸に秘められ、ラストシーン、いまだなにも知らない世界で、祭り囃子の音楽が「日常」を切なく奏でている。美しい作品。
森バジルさん「世/界/半/壊/リ/ス/ト/カ/ッ/ト」
それがたとえエゴでも、あなたに「呪いの言葉」を捧げよう……そんなイメージの作品。99%信じられない、でも、1%でも信じてしまったら、かかってしまう呪い。エゴと、優しさが交錯している物語。
永坂暖日さん「約束を鳴く鳥」
永坂さんの「地下世界シリーズ」のなかで、年代記(?)的にはおそらく最初のほうに位置する作品。ただしシリーズを読んでいなくても問題ないと思われます。ラスト、予定調和的に〇〇がやってこないのが永坂仕様ですね……
千葉まりおさん「死後に生まれるチャーリー・グレイの物語」
どことなくアメリカの洒落た短篇を味わったような読後感がある。おそらく収録作品のなかで、一番、優しくて幸福な物語。いや、主人公は冒頭でお亡くなりになるんですけど。
作楽シンさん「薄明にも見えない光」
たとえ幸せが見いださせなくても、この手を離さない。世界そのものの終末観と、ふたりの関係の行き着く先の終末観。二重の終末観。終末がテーマのアンソロジーに相応しい作品。
どの作品でも、登場人物たちは絶望に打ちひしがれることなく前向きに「終わりの世界」に生きています。さすがに「終末」だけあって、前向きは前向きでも一癖ある前向き揃い。作品もまさに粒ぞろいで、よいアンソロジーです。
宮田秩早