眉太き巫女と三嶋の小春日と
パイプ椅子を引きずり極月の路傍
北風をはみ出してゐる教習車
隙間風や検査キットの線赤し
人参は未明に届く洗衣院
風花は巻き戻さるるビデオかな
怒ることほとんどなくて餅を搗く
■ 牟礼鯨
眉太き巫女と三嶋の小春日と
パイプ椅子を引きずり極月の路傍
北風をはみ出してゐる教習車
隙間風や検査キットの線赤し
人参は未明に届く洗衣院
風花は巻き戻さるるビデオかな
怒ることほとんどなくて餅を搗く
■ 牟礼鯨
■
紅灯へ年越蕎麦を取り分けて
牟礼鯨
■
舞う雪や乱反射する幻灯機
泉由良
末枯や紙幣に指がねばりつく
荒星や地上に届く飛機の音
小春日を透明にする窓がらす
神をらず蹠に痼る血は鉄に
南天の実と遠州の陶房と
刀身へ女ら冬の貌映す
城下町へ蜜柑の実る木を載せて
■ 牟礼鯨
■
木の葉散るネパールの紙棚奥に
牟礼鯨
■
葉脈に秋の日暮れを見せてやる
泉由良
風力発電機一基回らず渡り鳥
水始涸よジャム瓶底に闇
亀虫や階下の人は無口なり
ジェイコブの梯子まきとる秋の潮
山霧を鬻ぐよ無人販売所
次郎柿や鉱山雨に濡れてゐて
秋霖や有楽街のあぶれ猫
秋雨の底ひに藍のマッチ箱
■ 牟礼鯨
■
冷まじや鬼門に墓地の家相とて
牟礼鯨
■
秋晴れのひかりに透けてゆく火葬
泉由良
■ 牟礼鯨
グラノーラにヨーグルトがけ夜業終ふ
あたらしいベッド並ぶる早稲田かな
月光や川の向かふに鉄工所
わらび餅売る歌焼肉屋の裏に
眠すぎて二百十日を過ぎにけり
寿司屋もうやめたのかしら秋の雲
秋夕焼や話は醤油麹から
木の実落つ美術館から抜けられず
荻の近親へ萩の遠戚へ粉糠雨
ウェディングドレスを載せて颱風へ
吊花の実や建築家亡き宅に
乳酸菌飲料売りに竜田姫
からあげのはみ出してゐる爽やかさ
旧姓と靴を捨てます秋の空
月の香は濃し彼岸花白ければ
神鈴は秋声となり事任
白い花が好きな人ゐた金木犀
川蟹を茹でる時間は虫の声
秋晴へ諸手をあぐる衆議院
水澄みて星野みなみの言ふとほり
■
秋冷やからみつく月琴の弦
牟礼鯨
■
眠剤と更待ち月と針と糸
泉由良
川蟹や煉獄の火を掲げをり
夏深し鯨ヶ丘に塩の道
漬物の青は秋風へと移る
地下街のがらくた尖る天の川
八月の雨に雨つぐ黒電話
終戦の日や指の腹はぼろぼろ
忘却にへこむ額よ秋涼し
歯並びは鬼ゆづりなり蓼の花
赤のまま取集時刻は消えてゐる
不知火やβ世界線のたわし
左手は布巾にくるむ芙蓉かな
暦師の版木色褪す水澄みて
空赤き北極の絵よ秋の暮
忘れ井戸悲しき星月夜を吐く
密告の魚を洗ふ稲光
■ 牟礼鯨
ひぐらしの町研がれゆく角砂糖
■ 牟礼鯨