出店者名 泉由良
タイトル さよなら楓ちゃん
著者 泉由良
価格 200円
ジャンル 純文学
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紹介文
中篇小説と詩の2本を収録した文庫本です。

「さよなら楓ちゃん」

幼稚園から中学まで同級生で、
その後ばらばらの高校と同じ予備校を経て大学生になった、
ふたりの女の子。
今になっては重いだけでしかない
  ──ような気がしてしまう──
      ビタースウィートな記憶。
あの頃私たちのあいだにはうさぎのぬいぐるみ、かえでちゃんがいた。
(2012年書き下ろし)


「桃の夢」
2011年詩作合評会in Necotoco 共通テーマ「桃の夢」提出作品

 薄い桃色のぶたの縫いぐるみを持っている。名前は、バムセという。

 初めてバムセと出逢ったのは、ある児童書のなかで、私は小さい子どもであったときにそれを読んだ。原作はスウェーデンの『ロッタちゃんのひっこし』というその本が私はとても好きで、バムセとは主人公の女の子「ロッタちゃん」が大切にしているぶたの縫いぐるみの名前だった。「ロッタちゃん」のシリーズがスウェーデンで映画化されたとき、バムセは本の挿し絵から飛び出してきたかのように縫いぐるみになって、日本でも販売された。特大サイズから小サイズまであって、私は中くらいのサイズのバムセを、今でも大切に持っている。時々かおが向いている方を変えて違うものを見せてやったり、あたまを撫でてやったり、しっぽをちょろりと触れたりする。大切な、世界でたったひとつだけ。たったひとつの、私のバムセ。大切な子。

   □

「しずるちゃんデイトしよお」

 Kちゃんの言葉はやわらかくたゆたう、関西弁だった。
 懐かしく思い起こす反面、眼球の裏に鈍い痛みが走る。


 しずるちゃんデイトしよお。


  


物語だからこそ表現できる“好き”
「さよなら楓ちゃん」は、女の子ふたりの物語だ。お互いがお互いを好きだった女の子たちの、言葉で表現するのがむずかしい感情を、あるいは関係性を、物語であらわしている。積み重ねられた出来事でしか表現できないものが、あるのかもしれない。

わたしがそう感じたのは、自分にも、むかし特別な女の子がいたからだ。恋情とは思えず、でも友情と呼ぶには重すぎて、その子に向ける感情をどう呼べばいいのか、いま振り返ってみてもよくわからない。ただ、その子のことがとてもとても好きだった。「さよなら楓ちゃん」を読んで、そのことを思い出した。

とてもリアルで、でも夢のような甘さをまとい、そして途方もないさみしさあるいは苦さあるいは不器用さを抱えたこの物語は、女の子という概念そのもののようにすら思えて、とても好きだ。とても。わたしはもう女の子なんて年齢ではないけれど、その時間は遠く離れてしまったけれど、でも、だからこそ、なつかしくて、なつかしくて、たまらない気持ちになった。

かつて女の子だったひとたちに、あるいは女の子を胸のうちに抱えたことのあるひとたちに、おすすめしたい物語である。
推薦者なな