おや、久しぶりの来客だ。私はユキオカ。ここは私の研究室だ。 よくたどりついたね……ノーチラス? あれは、君のような大きさのものを運べただろうか? ノーチラス、――潜水艦。なるほど。陸にはいつのまにかそんな文明が生じていたのか。私がかの地にいたのは、もう何億年と昔のことだからな。こんなからだで、どうやって? と。 ふふふ、いまはね、いまはこんな、十本の手指と足指を持っているが、昔は違ったんだ。十本脚で半透明の、うつくしい姿をしていたのだ。 ……年長者の話はつまらないかね。そうだろう、私もそう思っていたよ。ペンギンやクジラ、老いぼれどもの話に耳を傾けることになんの意味があるのか、とね。 だが、最近では後悔している。かれらの言葉は歴史であり、創世そのものであったのだ。 ああ、あの言葉の数々! ひとつひとつが、失われた太古、とおりすぎた郷里、それらを偲ぶ唯一のよすがであったのに! 私のこの耄碌し欠けてしまった脳の記録では、とりこぼしてしまったものが多すぎる。 光すらたどりつけぬ闇の深部にたどりついた君に、これをあげよう。 いまでは完成することのない書物だがね。 みずからの職務を放棄し、老いぼれの言葉を繰り言と侮った語り部が、足りぬ部分を夢と空想で補完し、それでもなお欠損ばかりの、な。 さあ、ゆきなさい。 きみはまだ命の死骸の降るのを雪と呼ぶには若すぎる。清浄なるH2Oの結晶の降る、陸へお帰り。
|