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「柳臣、烏丸だよ」 |
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子どもの頃と今の自分は、べつの世界を生きている気がします。知識を得、常識を覆し、かつて視えていたものを失う。誰かと出会い別れる。わたしたちは知らず革命し、変質してゆきます。 烏丸、伊呂波、海沙貴、柳臣。『魚たちのH2O』は四人の少年たちと水蓮博士の物語です。学園は寮制で、ふたりずつルームメイト。四人は科学部というクラブ活動をともにしており、水蓮は顧問です。クラブといっても具体的な活動が決まっているわけではなくて、理科室でちょっとした観測をしたり夜に星を見上げたり、ときには水蓮にドライブに連れて行ってもらったり。ささやかなやりとりの繰り返しです。 本作でえがかれる世界は、わたしたちの住む世界とは異なってみえます。「色覚の退化してしまった目」、「ぼくたちのH2Oは海水と癒着すれば溶けだしてしまう」。ずっと先、滅んでは生まれを繰り返した十億年後でしょうか。けれど隔りの手ざわりはさりげなく、学生時代の日記を読み返すような距離感。 おとなしい子、不思議な子、活発な子、ケンカっぱやい子、イレギュラーな大人。「たがいにかくしておきたいものを探しあわないのは暗黙の了解だ」、「二人で歩いている沈黙がなんとなく気まずくて、わけもなくあやまってしまった」。わたしは男の子でもなかったし寮にいたこともなかったけれど、かつて一緒にいた友人たちのことを思い出しました。 伊呂波は鍵やナットなど、なんでも食べてしまう。クラスでは、彼がオートマタなのではと噂されていて……。物語はひたひたと訣別へ向かいます。 個人的には、この物語が烏丸の視点からえがかれていることがとても愛しく思えました。「ぼくはいつも、一拍遅い。」と心中で述べつつ、周囲をじっと見つめ、そうっと距離をはかってゆく。 かけがえのない何かを交わした誰かや日々はたしかに何億年もむかしのことで、とっくに滅んでしまった。かさっと軽いグレーの紙に綴られた物語は幻想的な筆致で、忘れていたいろいろを優しく差し出してくれます。わたしたちはいつのまにか物語/記憶のなかにいて、自分や誰かと再会するのです。 本作は『Last odyssey』と同じ登場人物で前日譚のような位置づけ。わたしは『Last〜』→『魚たち〜』の順で読みました。あらかじめコーダを知ったうえで聴くソナタは、たいへんきれいで切ない。 | ||
推薦者 | オカワダアキナ |