小銃が三度動いた。 赤く、黒く、するどく。弾丸は俺の身体を貫通する。内臓あたりがやられただ ろうか。 しかし、エンドルフィンの作用からか肉体は痛みを訴えない。 まだやれるな。 瞬間的に判断し、俺は向かってくる弾丸を避けずに、銃弾の射手を両手に抱え た銃剣で突いた。黒い防弾服を着た中年男の心臓を一突きすると、裂くように上 へと刃を振り上げる。噴き出す鮮血が白刃を赤く染めていった。 どうやら、警備兵といえど実戦経験はあまりないようだ。これなら、何人かま とめて現われても、十分に対応できる。 中央省庁特注の防弾服は厄介だが、急襲に慣れていない相手ともなれば間合い を詰めるのは簡単だった。彼らの銃を持つ手が震えているため、まず急所には当 たらないのだ。そこを利用して、小さなカーブを描くように突撃すれば、接近し て喉首に刃を立てるのはたやすい。 対象を殺害したのを確認すると、俺は人民管理省のさらに深奥へと向かってい く。 そこから数名の警備兵を殲滅し、無機質なコンクリート製の床を駆けると、出 迎えるようにして自動開閉のドアが開く。 五十人ほどの人員が作業できる広々とした一室。ここが中央管理室だ。しかし、 この大事にもう人は出払っているようで、管理室には誰もおらず、警報音だけが けたたましく空間を埋めていた。 「AURAより命のほうが惜しいか。ま、こちらとしてもそのほうが助かる」 誰もいない部屋でそう一人ごちると、さっそく中央管理室から通じる非常階段 のセキュリティを銃弾で破壊して、上へ。 AURAのいる六十階まで、階段を使えばあと十分といったところだろうか。 すこし身体が痛くなりはじめた。 しかし、あと十分もあれば十分だ。
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