出店者名 七歩
タイトル センチメンタルホスピタル
著者 七歩
価格 400円
ジャンル 掌編
ツイートする
紹介文
「その病気、治す? それとも飼い慣らす?」

魔王様の病室、天使の病室、珍しい病の人間の病室などなど。
そもそも病ってなんだっけ。
1話140字で綴る不可思議なカルテ。

【効能】精神疲労時の栄養補給
【用法】お好きな時間に摂取していただいてかまいませんが、とりわけ就寝前が効果的です。
【副作用】センチメンタル

二〇一号室の患者様は病室から出
てきません。そういう病ですから
と先生。季節が巡った頃でしょう
か。カタリ。唐突に開いた扉から
フワリ揚羽蝶。
あの方はご病気だったのでしょう
か?
そう問いますと、
あの方がそう思われたならと。
残された蛹はホルマリンに浸し、
お大事にと空を見上げる。



病室にはお食事用に花を飾りました。戻られるかは解りませんが。



                               【病名】成長


一滴の毒
幼い子に物語を読み聞かせようとするとき、大人たちはどうしてか「無垢で純粋で、けがれのないもの」を与えようとする。
その子がいま、足をつけて呼吸をしている世界が、けっして純粋で優しさだけに満ちていて、悪意が一切ない世界でないということを、痛切にわかっていながら、それでも、毒を含まないものを与えようと。
物語の受け取り手である子供ではなく、物語の与え手である大人自身がこの世界を、自分の生きて積み重ねた時間を否定する行為のようだ、と思う。

センチメンタル・ホスピタルは、そんな大人のための書物だ。
無垢で純粋で、一切の悪意を排除した「善き書物」を幼子に与えてしまおうとする、愛しく滑稽な不安にこたえる本、と言っていいかもしれない。
この病棟に入院している患者たちはみな、「世界は善意とやさしさに満ちている」書物を大人からもらって成長してしまったこどものように無邪気だ。物語で知った世界と、実際自分が生きることになった世界とのギャップに驚いて、躓いてしまったこども。
生身の足が踏み、生身の肺が呼吸し、肉眼が見る病棟の外は毒に満ちている。
先生は回診する。無垢に創り上げられてしまったその人の「世界」に、毎日一滴ずつ毒を含んだ点滴をする。
患者が生きづらい世界に順応できるよう。生きづらい世界でなく、「こうあるべきだった無垢な世界」へ行くために。
推薦者孤伏澤つたゐ