「日本鬼子、不要得意忘形」(このガキ、おとなしくしてやりゃ付け上がりやがって) 「是的,在?个意?上」(はいはい、そこまで) 「你是?、」(なんやおまえ、) 「兄弟 ?是初中生 不要?不可能」(兄さん、そのコまだ中学生や。無理言うたらあかん) 「走?」(関係ないやつは引っ込んどけ) 「?不能做、?名警察」(そういうわけにはいかへんねん。ケーサツやからなあ) 「おいおい、生田のソタイにそんな流暢なチャイ語しゃべれるおまわりなんかおれへんど。このボケ、どこのもんや、ワレ」 「ここにおるて言うとうやろ。生活安全課の如月や、覚えといてや、オニーサン」
JR三ノ宮駅から山手に広がる生田東門商店街、通称・東門街は神戸随一の歓楽街だ。
「おまえ、それで、セイアンて……」 「な、今日は俺の美しいチャイ語に免じて、それぐらいで許したってえや」
スキンヘッドの、見るからに堅気ではない男は一瞬だけぷぷっと噴きだしてから、すぐに憮然とした表情に戻る。
「同文出ぇか?」 「おおっと、センパイ?」 「……今日だけやぞ? そこのガキに、ちゃんと躾けしとけや」 「ありがとう。なんか困ったことがあったら、いつでも俺んとこまで会いに来てな」 「誰が行くか、ボケェ」
そういう俺も日本人の父親と日中ハーフの母親から生まれ、4分の1は祖母から続く華僑の血が入っている。そして幼稚園から中学校までは華僑系のインターナショナルスクールで教育を受けていたが、ありがたいことに思想的には特になにも感化されず育ち、
「おにいさん、助かったわ。ありがとう。あのハゲ、めっちゃ、しつこかってん」 「おにいさん、とちゃう。それに、さっきのヤツも禿げてはない」
公務員になった。胸のポケットから身分証明書を取り出し、目の前にぶら下げる。
「兵庫県警、生田警察署、生活安全課、如月総悟、です」 「なあんや、ほんまにポリなんや」 「なんや、やないよ。キミいくつや? 高校生? 今何時やと思ってんの?」 「いくつ、て」
くす、と笑いながら肩に掛けた小さなバッグから財布を取り出して、運転免許証をこちらに向ける。
「原付の免許か、南原…ナオト? んん? 平成9年8月生まれ?」 「もうすぐハタチになるねん。残念やけど補導はできへんよ」 「ちゃう、おまえ……」 「なに? お酒も飲んでへんし、クスリは興味ない。ついでに言うと前科もないよ?」 「おまえ、男やったんか!」
これが俺とナオトとの、出会いだった。
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