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うまくたらしこんで引き入れたものだと感心していたが、いざ話をさせると歯切れが悪く辟易させられる。 何度も呼び出せるわけではない。 じれったいことこの上なかったが、三度目ともなると、話を引き出せている実感を持てるようになった。 ちびちびとくちびるを湿らせるようにした酒が減るにつれ、近衛の男はうつむいていた顔を上げはじめている。 「……後宮が、一番手薄だ」 彼らはすばやく目線を交わす。 後宮に暮らすのは、現在は正妃と第二夫人たちだと聞いている。何人かの姫と王子がおり、おそらく王城で王とともに暮らしているのだろう。 「こう……王城があって、後ろに後宮が」 空中に近衛は線を引く。 証拠が残らないよう、紙にしたためたりはしない。 室内にいる十人ほどの仲間たち全員が、それぞれ自分の頭に書き留めていく。 畑の合間にある古い家屋は、収穫物の保管庫と銘打った場所だ。家具はわずかなテーブルと椅子、農具を収納した木箱だけである。 わずか十人ていどが肩を並べただけで、屋内は手狭になっていた。窓は内側から潰してあり、夜に集まったところで明かりがおもてに漏れることはない。出入りにだけ気をつかえばいい、集会に使っている場所である。 「まわりに堀があって」 こまかく動いていた近衛の指が、大きく動く。円を空中に描いていった。 そこから記されていく線が、外壁と城内に至るための道筋なのだと、そこにいるものたちは理解できた。 建築技師の家が見取り図を残していたのだ。設計した匠はものいわぬ死体で帰宅したが、先だって城を出ていた弟子が隠して持ち帰っていたのである―そのことは近衛には話していない。 火にくべ、すでにその地図も残っていなかった。彼らは地図をそらんじることができる。地面に何度も何度も地図を描き、そして消してきたのだ。はだしの足の裏が砂を、あるいは土を乱す感触は飽くほどである。 近衛の描く図面は正確だった。 少なくとも、みなの知る王城と一致している。 嘘をついていない様子に、周囲がほっとした顔をする。近衛のとなりに立っていた女が、わずかにうなずいた。 彼女がとちゅうから近衛の男に本気になっていたのは周知だ。近衛もまた本気になり、そのために情報を売り渡しに来ている。 すべてが成功すれば、ふたりが所帯を持ってもなんら問題はない。
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