出店者名 残響センセーション
タイトル くちびるから微熱
著者 浅梛実幻 瓜越古真 蟹糖繭 笹波ことみ 萌芽つゆり 澪川夜月
価格 600円
ジャンル 大衆小説
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紹介文
新書 136ページ/約6万字

そのくちづけは媚薬。君の熱に浮かされるキスにまつわる物語。

豪華執筆者六名による大ボリュームキスアンソロジーです。ジャンルは恋愛のみならず、様々なキスが描かれています。あなたにとってあの日の微熱を思い出す物語がありますように。

◆相合傘の距離感 瓜越古真
◆スイートピー 蟹糖 繭
◆1964.12.24. 笹波ことみ
◆邯鄲の夢 萌芽つゆり
◆勿忘草と夢の淵 澪川夜月
◆所詮、ただの夢ならば 浅梛実幻

 少女の鼓動は、人生で一番高まっていた。
 青薔薇を摘んでそれを運ぶ下級の暮らしぶりでは、日々の生活に刺激もなく、ただ生き、ただ青薔薇姫へ祈りを捧げることのみが許されていた。この手紙をもらったことと言い、優しい死神さまと騎士さまに助けられたことと言い、このときほどありがたく思ったことはなかったし、人生ではじめて『報われた』と思った。
 金髪の青年が先ほどの戦闘で乱れたオールバックの前髪を無造作にかきあげながら、こつこつと革靴を鳴らし、こちらへ近づいてくる。
 獣のような、強いて言うなら昔、絵本で見かけた豹という生き物に似ていた。角度によって色んな表情の金色を見せる髪と赤茶色の切れ長の目つきがそう彷彿させるのだろう、と少女は一人納得した。黒髪の青年は手を離すと、少女の頭や肩から雪を払い、これでよし、と腰に手を当てた。いつの間にか大きな鎌も、魔獣の屍も忽然と消えている。
 黒髪の青年が少女に手を貸して、立ち上がらせると、金髪の青年はすっとその横に立って、無言で少女にフードを被せた。
「ありがとうございました。優しい死神さまと騎士さま」
 少女がスカートの端を持ち上げて、そうお辞儀すると、黒髪の青年はふはっと笑い、気をつけて帰りな、と笑った。この人の感情は読めないけれども、今のは本心だ、と少女は確信していた。
「このご恩は一生、忘れません」
 白く美しい雪でさえも視界を埋めてしまうのがもったいないと感じてしまうほど美しい御人たちだ。少女は胸元で自身の血で赤黒く汚れた手を組み、二人の青年をじっと見つめた。