出店者名 鹿紙路
タイトル 変人姫君と熱血騎士
著者 鹿紙路
価格 300円
ジャンル ファンタジー
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紹介文
野涯国の王女ペトラは、本の虫。その日も聖堂付属図書館で本を読みふけっていた。彼女が図書館から出て出会ったのは直情径行の騎士。じつはふたりは旧知の仲で――

『野の涯ての王国』(「女王の結婚」「魔女と幻術王」)2作と世界観と一部登場人物を共通させたスピンオフです。2作を読んでいなくても大丈夫な、基本ほのぼのコメディ。

105mm×105mmの、手書き風イラストの入ったかわいい正方形の本。

 ペトラは読書を愛している。
 聖典、神学書、博物誌、法律書、奇譚集、なんでも読む。
 王女という自分の立場を十二分に利用して、余人の入れぬ書庫に入り、一日の大半をそこで過ごす。
 であるからして、その騎士がだれであるか、気づかなかった。
 いつものように、夕方しぶしぶと聖堂付属図書館から城に戻る道すがら、自分に走り寄る青年が、だれであるか。
「姫様! お久しぶりです!」
「……そなた、なにものか?」
 癖の強い短い黒髪。太い眉。きらきらと輝く茶色い瞳。広い肩幅、高い背、がっしりした体躯。足につけた金の拍車と、斜めがけにしたマントの紋様は、王家直属の騎士であることを示している。
 青年騎士はあからさまに嘆いた。
「わたくしをお忘れですか、殿下!」
「うぬ?」
 ペトラの常に青白い顔に、少々の戸惑いがよぎった。確かに、なにか心に引っかかるものがある。このきらきらした、いや、ぎらぎらした傍若無人な瞳の輝き。性格はといえば、直情径行の一言。
「そなた――あー、ええと、ヘングストの三男坊の……あー……」
「小(しょう)アンスヘルムです、姫様! 風磐国(かざいわこく)より帰還いたしまして、このたび姫様の近衛を仰せつかりました!」
 王女の静寂に慣れた耳には、その声は負荷が強すぎた。
「……うるさいな」
 アンスヘルムと名乗った青年は、狼狽して叫んだ。
「ししし失礼を! 姫様は静寂を好まれるのでしたね……!」
 ようやく彼の声が抑えられた。
「はて、面妖であるな。そなた、一昨年は、こんなではなかったか」
 ペトラは手のひらを地面に平行にして、自分の眉のあたりで静止させた。
「それがこう」手のひらをめいっぱい上に持ち上げる。「なっておる」
 アンスヘルムは白い歯を見せてにっこりと笑った。
「背が伸びましたもので!」
「……」
 ペトラはゆっくりと首を右下に傾けた。
「……そう、か?」
「はい!」


 ペトラは十七歳、アンスヘルムは十八歳。王女と、廷臣筆頭の武門の家・ヘングスト家の息子、となれば、旧知の仲である。といっても、一日じゅう本を読んでいたペトラと、訓練場で駆け回っていたアンスヘルムは、顔見知り程度でしかない。
 その二人が、姫君とその騎士として、再会した。