出店者名 鹿紙路
タイトル 野の涯ての王国〜女王の結婚〜【新装版】
著者 鹿紙路
価格 900円
ジャンル ファンタジー
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紹介文
※表紙イラスト・口絵付き(装画・表紙デザイン:ふたば(=佐藤二葉))

【ジャンル】

西洋中世風心理劇(戦争もあるよ!)

【あらすじ】

「あなたのために生きたいんだ」――野涯国(のはてこく)女王、19歳のアマーリエは、辺境国家である深森国(みもりこく)から、年下の王子を婿に迎える。女王は最初の結婚という過去の傷をもちながらも、彼に誠実に向きあう。彼もまた、彼女を欺きながらも、彼女に惹かれていく。そんな中、野涯国の大諸侯が、不穏な動きを見せ始め……。

 風の絶えた、厳寒の早朝。
 薄明がするどく雪原を照らす。
 すべてが死滅したような静寂のなかで、しかし、雪原の手前の森では、三千の兵が白く呼気を立ち上らせていた。
 小刻みに聞こえるのは、寒さに耐えかねた人馬の足踏みの音。きしきしというその音は、針葉から雪が落ちる音とまじりあい、重なり合ってさざなみのような震動を起こしている。
 その震動が向かう先は、雪原に黒くそびえる城。そして、その前に広がる敵陣。
 突如、一打の号音が鳴り響く。
「ものども――前へ!」
 進軍の太鼓とともに、甲高い少女の声が放たれた。
 騎士、歩兵、弓兵――
 黒い影となって、兵馬がなめらかに前進する。
「構え!」
 ざ、と一斉に得物が構えられる。
 高らかな蹄の音とともに、松明を掲げた馬上の少女が戦列の前に飛び出すと、くるりと機敏に自軍を振り返る。
 赤い炎に照り光る、うねるような黒く豊かな巻き毛。太い眉と、大きく丸い眼。
「待ちに待ったときが来た!」
 応、という鯨波が湧く。
「汝らがここにいるはなにゆえか!」
「――すべては、われらが女王の御為!」
 間髪おかず兵が答える。
「悪しきゾーネを滅ぼすは、なにものか!」
「われら隼の騎士!」
「武勇と命を持って、陛下に仕えよ!」
「応!」
「敵は尽く殺せ!」
「応!」
「行く手を阻むものは、尽く叩き潰せ!」
「応!」
「戦いの間荒掠に走るものは!」
「味方の手で殺す!」
「怯懦に逃げるものは!」
「味方の手で殺す!」
「風も通らぬほどに密集せよ!」
「応!」
「嵐のごとく疾駆せよ!」
「応!」
 どん、と再度太鼓が鳴る。
「――進撃!!」
 地鳴りのような鬨の声とともに、女王を救出するための戦が始まった。
 指揮したのは――無論、数多の臣の補助を得て、だが――当時十一歳の、女王の妹である。
 彼女の年齢に不安を覚える者は、その場にはいなかった。