出店者名 鹿紙路
タイトル ロマンス イン ザ ダーク/ブライト
著者 鹿紙路
価格 1500円
ジャンル 恋愛
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紹介文
ハードカバー(角背上製本)

【ジャンル】ヨーロッパ現代舞台の恋愛小説(百合)

【あらすじ】ヨーロッパのとある国。十四歳の寄宿学校生の少女リフィは、夏期休暇の始まり、母の家を訪ねる。母は父と別居し、そこで療養中だった。父方の家のある島に帰省した夜、父に叱責を受けたショックから、自転車で家を出たリフィは、そこで美しい少女キャスと出会う……。少女と少女の、恋の物語。

二十年後舞台(主人公二人は四十代)の後日譚:ロマンス イン ザ ブライト 収録。

画像の表紙の柄から変更になる場合があります。

「……そう。あのひとから帰って来いって手紙が来たの」
 久しぶりに母の家を訪ねる。
 寄宿学校近くのバス停から都市間(インターシティ)バスに乗って、あらかじめ運転手に伝えておいた、農地以外になにもない場所で止めてもらう。羊や牛がまばらに草を食む牧草地のなかを、てくてくと四十分ほど歩くと、母の小さな家があった。昔ながらの農家を少々改装した、白壁の切り妻屋根の家。そばに型の古いシトロエンと、ささやかな野菜畑、盛りを迎え始めた野ばらとあじさいの茂みがある。
 その日は体調がよかったらしく、彼女は居間のテーブルで黄ばんだフランドル派の画集をめくっていた。
 家政婦兼看護師のマーレイは、部屋の隅でふたり分の紅茶を用意してくれている。
 わたしは母と同じテーブルの椅子に座り、青く塗られた窓枠のなかに見えるこの国らしい景色を眺めながら、ぼそぼそと言った。
「中高等学校(セカンダリ・スクール)に入ってから、全然帰ってなかったから。顔を見たいって。……さすがに、三年も顔を見ていないと、心配だからって。正直、行きたくない」
「どうして?」
 何の感情もこもっていないように見える、母の灰色の目に見つめられる。
 わずかな怒りと悲しさが胸に生じたのを感じた。
「……あのひとに、会いたくない」
 母はわずかに口元に笑みを乗せた。
「仕方ないでしょう。父親なんだから」
「会いたいなんて、入学してから一回も思ったことない。あのひとを、もう父親だなんて……思えない」
 母の笑みは困ったような形に変わる。
「……そんなこと言わないで。悲しくなるわ」
 ――悲しくなる。
 母は感情の振れ幅が激しくなる病を患っていた。もう、五年近くになる。気分が落ち込んだときはベッドから出られず、食事や睡眠もままならなくなる。普段でも、長時間文章を読んだり作業をしたりするのは困難で、時折散歩をしたり、村に出て買い物をするのが精一杯だ。おおきな音やまぶしい光に敏感で、トラックの走る幹線道路やおおきな街に行くこともできない。
 母を悲しませるためにここに来たのではなかった。
「ごめんなさい。でも、あの島は嫌いじゃないんだ。シャノンにも会いたいし。リアム兄さんはスペインに行っちゃってるけど。だから……」差し出された紅茶を一口飲んだ。「夏休みのあいだ、行ってこようと思う」