出店者名 鹿紙路
タイトル 〈渡り〉の城柵??Citadel for Peacebuilding??
著者 鹿紙路
価格 600円
ジャンル ファンタジー
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紹介文
環(たまき)北辺の地・井津端国(いづはこく)で民衆が反乱を起こし、春山城が焼かれる。七年前の怨霊出現事件で無職となっていた軍事貴族:春野は、元上司保円(やすまど)の推挙により反乱鎮圧のための鎮守将軍に任命される。地元民のことばや事情に精通した春野の功により、反乱軍は降伏するが、都からは尚も殲滅を命じる飛駅が来て――。
北の財に殺到する王臣家。専横を極めようとする摂政。国家という肥大した欲望に晒されて、北辺とともに生きることを選んだ春野は、葛原氏の利害と切り結びながら、旧友たちと死地を切り拓こうとする。
「<渡り>の城柵――望春に駆けよ――」15年後舞台の続編。

《おおい、そろそろ交替しよう》
 青年は櫓の下からの声に、視線を下ろした。
 幼いころからともに育った、三つ年上の男が梯子を登ってくる。
 革の手袋に覆われた手を伸ばし、彼を引き上げてやる。
《雪、積もったな》
《ああ……。でも、もうそろそろやむんじゃないか》
 ふたりは櫓の端に据えられた松明のそばの腰掛けに座り、火に手をかざしながら見下ろす。
 九月。すでに初雪から十五日が過ぎ、冬が瞬く間に始まっている。
 刈り終えた田を、すこし登った段丘の突端にある村から、彼らは雪の降り続く平原を見張っている。
《そうかな……? しかし、おまえの先読みは当たるからなあ……》
 青年は雪片のゆくえに目を凝らす。わずかに、降り落ちる雪の濃さが薄くなっていくのがわかる。
 つぶやいているあいだに、平原の向こうから、地を這い上るように風が吹き上がってくる。ふたりは目を細め、閉じて、手庇を作って、ふたたびひらく。
《……おい》
 雪はやんだ。
 青年たちは立ち上がり、同時に梯子に殺到しようとして、肩をぶつけ合う。
《あ、くそ、おまえ先に行け》
《――ああ……――》
《おおい、だれか!》
 青年のひとりは櫓の手すりに駆けつけ、そこから村の家々に呼びかけた。
《至急村長を呼んでくれ!》
《……どうした?》
 ちかくの竪穴住居から、村人が出てくる。先に梯子を急ぎ降りた青年が叫んだ。
《田のなかに、女が立ってる! 環人たまきびとだと思うが、下着一枚だ!》