【さびしがりな灯台の話】
あるところに、灯台がいた。 白くて大きな灯台で、背はそこまで高くないけれど、海のかなたまで照らせるきれいなレンズを持っていた。 そして灯台は、とても、さびしがりやだった。 灯台は海に面した山はだの崖に、たった一人で建っている。 街へ続く一本しかない道は、山を越えていく時間のかかる道なので、ひとが訪れることは滅多にない。 近くにはむかし灯台守たちが住んでいたいくつかの家があって、みんな灯台とも仲が良かったのだけど、ずいぶん前に無人になってから家達は言葉を無くした。その時からずっと灯台は一人だった。 誰も来ない場所。聞こえるのは、鳥たちの声と風の吹く音。見えるのは山と空と海。 そんなひとりきりの毎日が、灯台は心底つらくて、大きなレンズがくもってしまうほどだった。
【時計ネコ】
とある町に、鐘のついた立派な時計塔がいた。 レンガ造りの時計塔は、町で一番背の高い建物である。毎日、決まった時刻に自動で鐘を鳴らす仕組みになっていて、その鐘の音はとても美しかった。 時計塔は、ステンドグラスの見事な教会と一緒に建っていて、教会に通う町の住人だけでなく、やってくる観光客にも人気だった。 毎朝、時計塔は鐘を鳴らし、ミサの時刻を町中に知らせる。 「さあ時間だぞ! 早く集まるんだ!」 澄んだ鐘の音を聞いて、人々が早足で教会に集まる。時計塔は人々を見下ろしながら、満足して言う。 「ああ、今日も良い音だ! おれはなんて素晴らしい音を持った時計塔なのだろう!」 時計塔は、自分が町で一番高く、また自分の鐘を基準にして町全体が動いているという事を、とても自慢に思っていた。
【恋する鉄塔】
あるところに鉄塔がいた。 そんなに背は高くなくて、ちょっと太めのフォルムに、立派なパラボラアンテナを持った鉄塔で、様々な電波を受信する事が出来た。 鉄塔は川のそばの施設に建ち、周りにはたくさんの鉄塔仲間がいて、互いに協力しながら、毎日色々な電波を聞いていた。 ある日、鉄塔は強いノイズを聞いた。ただのノイズかと思ったら、ザーザーと鳴る中にかすかに、声が聞こえる事に気づいた。 それは歌だった。この場所で長い間電波を聞いてきた鉄塔でも、初めて聞く歌だった。 その声は人間達の作る電波ではなく、同じ鉄塔の声のようだった。本当にかすかなので、何と言っているのかまでは聞き取れない。 だが、声は澄んでいて、美しかった。 晴れ渡った早朝の青空や、透明な水溜まりみたいだと鉄塔は思った。
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