「つかまえたっ!」 突然、僕に抱きつく者が。その声で、誰だかわかっただろうに、気がつけば僕は彼女をふりとばし、刀の柄に手をかけていた。スイの悲鳴で、我に返る。 かわいそうに、スイは頭を抱えてその場にふせていた。震える声でひた謝ってくる。 「ごめんなさい。許して」 謝らなくてはいけないのは、僕の方だ。訓練どおり体が動いたとはいえ、あやうく味方に刃を向けるところだった! なんという失態。膝をつき、心からわびた。 「僕が悪かった。痛いところはないか? つきとばしてしまって、すまなかった」 ううん、とスイが首を横にふる。それでも僕は、申し訳なさと、己に対する不甲斐なさでいっぱいだった。 「怖い思いをさせてしまって、本当にすまない……」 顔をあげることもできない僕の手を、スイの手が包む。 「さっきの、たしかに怖かったわ。だけどゲツ、もしかして、よっぽど大きなことを、一人で抱えこんでいるんじゃないの?」 「……。」 「悩みがあって思いつめていると、苦しくて、周りにも冷たくあたっちゃうの、私にもわかる。だからどうか、悩みがあるのなら言って。 私、全力でゲツに協力するから!」 なんてスイは素直で、強くて優しい子なんだろうか。目に熱いものがこみあげてくる。 スイになら、僕が抱いているこの疑心を全て、打ち明けてよかっただろう。 しかし、それは叶わなかった。
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