「それで、用件は何かな?」 頬に指先を当てたレーナは、シリウスの方へと双眸を向けた。いつも通り余裕を滲ませた気を纏っているのが、何だか奇妙に感じられる。シリウスを前にしても彼女はこうなのか。 「では単刀直入に言おうか」 一方、どこか冷め、どこか気怠げな目をしたシリウスは、今にもため息を吐きそうな様子でレーナを見返した。そこにあるのは呆れなのか。それとも何か別の感情も含まれているのか。梅花は二人の様子を交互に見ながら息を呑む。――シリウスはどう切り出すつもりなのだろう。 「お前の目的は変わらないのか?」 続く言葉は、梅花の予想したものとはかけ離れていた。不躾なそれは明らかに文脈を無視しており、普通なら疑問を投げ返すところだろう。梅花には全く意味がわからなかった。けれどもレーナには通じたらしい。彼女は表情を変えることなく首肯する。 「ああ。変わっていたらこんなところにはいない」 目的とは何なのか? レーナが何をしようとしているのか、まさかシリウスは知っているのか? 疑問が次々と湧き上がってくるが、ここで口を挟むのは憚られた。故に梅花は口をつぐみ、じっと事の成り行きを見守る。それは青葉やアースも同様のようだった。 すると微笑みを絶やさぬレーナに向かって、さらにシリウスは神妙に尋ねる。 「そうか、なら問おう。お前は私に仇なすつもりがあるのか?」 それはどことなく曖昧な問いだった。いや、梅花にはそう感じられるだけなのかもしれない。シリウスを見据えるレーナの瞳には、やはり疑問の色がなかった。お互い何かを読み取ろうとするような、密やかなる攻防が繰り広げられている。二人の気は凪いだままで、そこから察知できる感情はほんのわずかだ。 「それはできたら避けたい事態だなぁ。今のわれでは、どう足掻いても敵わないだろ?」 探るようなやりとりが繰り返されるかと思ったが、レーナはあっさりとそう答えた。彼女から「敵わない」という一言が飛び出してくると、実に不思議な心境になる。それをここで、当人の前で逡巡なく答えるのはある種とんでもなく度胸がいることかもしれない。それともその言動さえ揺さぶりなのか? 裏の裏を考えすぎて混乱してくる。 「ほう、ずいぶん素直に認めるな」 「事実だろ?」 苦笑するシリウスに微笑むレーナ。実際の実力と二人の態度は反対だ。これが彼女の存在をますます不可思議なものにしている。
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