出店者名 藍色のモノローグ
タイトル white minds 第4巻
著者 藍間真珠
価格 800円
ジャンル ファンタジー
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紹介文
違法者を取り締まるべく、異世界へと派遣された神技隊。狙われるはずのない彼らを襲ってきたのは、「第十八隊シークレット」そっくりの五人組だった。
そんな最中、リシヤの森の異変調査のために神魔世界へと呼び戻される神技隊。森に出向いた彼らは、魔獣弾と呼ばれる半魔族の復活に遭遇する。
その際に魔族とレーナたちとの繋がりを知った『上』は、ついに彼ら五人を打ち倒すために動き出す。その戦いを神技隊は目撃してしまい……。
謎と愛憎陰謀渦巻くSF、現代風味の群像ファンタジー。第4巻。

「おかしいなあ。気づかれてしまいました?」
 黒ずくめの男が、にたりと笑った。軽妙な声とは裏腹に、帽子に手を掛ける仕草は不思議と艶めかしい。白い指先がそっとツバを摘み、そのまま胸元へ移動する。帽子の陰からこぼれ落ちるように現れたのは朱色の髪だった。それはどう考えても人間の持つ色とは思えぬもので。髪を染める風習のある無世界でも滅多に見ない、鮮やかな色合いだった。
「これでも結構隠すのは得意なのになぁ。そのための上着まで作ったのに」
 ジュリは息を止めた。鼓動が早鐘のように打つ。これ以上この声を聞いてはいけないと、頭の中で警鐘が鳴り響く。それでも男から目を逸らすことができなかった。彼女の肩を掴むよつきの手に、にわかに力がこもるのがわかる。
「ジュリ」
 問われるように名を呼ばれても、小さく首を横に振るしかできない。ジュリにもわからない。男が何者かなど予想もつかない。けれども一つだけ確かなことがあった。――この男が、普通の人間であるはずがない。
「あなたたち、技使いですね? それもあの時、魔獣弾と交戦していた」
 男の口から飛び出した魔獣弾という名前は、その場を凍り付かせるだけの力を持っていた。それまで怪訝そうにしていたコブシ、たく、コスミも一気に顔を強ばらせる。魔獣弾のことを知る存在。――やはり、この男は魔族だ。
「ああ、そんな顔しないで欲しいな。安心して、今日はここで攻撃するつもりはないから」
 片手で帽子を抱えたまま、男はもう一方の手をひらりと振った。その動きにあわせて黒い長衣が揺れる。全ての動きが滑らかだ。それでいて得体の知れない圧迫感を放っている。ジュリはもう一度固唾を呑み、意を決するよう強く拳を握りしめた。
「あなたは……」
「君たちが察した通りの存在だよ。でも心配しないで、今は何もしないから。ここで暴れたら神に見つかってしまう。それは僕も嬉しくないのでね。君たちだって、死にたくはないでしょう?」
 くつくつと笑いながら投げかけられる言葉の冷たさに、ますますジュリの体は震えそうになる。倒れまいと足に力を込めても、地を踏みしめる足の感覚すら曖昧だ。それでも肩を掴むよつきの手が、かろうじてジュリの支えになっていた。ゆっくりと息を吸い、吐き、平静でいようと努める。
「あなたは何者ですか?」
 尋ねる声はジュリが予想していたよりもしっかりとしていた。その事実が少しだけ、力を与えてくれた。