出店者名 藍色のモノローグ
タイトル white minds 第3巻
著者 藍間真珠
価格 800円
ジャンル ファンタジー
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紹介文
違法者を取り締まるべく、異世界へと派遣された神技隊。狙われるはずのない彼らを、「第十八隊シークレット」そっくりの五人組、青い髪の男が襲撃するようになる。
そんな混乱の最中、『ゲート』の異変に気づいた梅花は元神技隊である両親と再会する。そして状況が落ち着かないまま、神技隊はリシヤの異変調査のため神魔世界へ呼び戻され、そこで空間の裂け目を目撃し……。
謎と愛憎陰謀渦巻くSF、現代風味の群像ファンタジー。第3巻。

 白く染まった視界が本来の機能を取り戻した時、目の前に広がっていたのは泉だった。燃え盛る炎もそこだけは飲み込みきれなかったとみえ、波紋の浮かぶ水面が赤や朱の光を照り返し輝いている。黒煙もこの場には留まりきらずに、辺りを緩やかにたゆたっているばかりだった。
「来てしまったか」
 泉を横目にたたずんでいたレーナが、ゆらりと振り返った。頭上で結わえられた黒髪が揺れる。ラウジングの姿を認めても、彼女は淡く微笑んだまま。気にも乱れはない。白い上衣に染みのように浮かんでいる赤は、返り血によるものか。うっすら辺りを覆う煙の中でも、彼女の姿は浮き立つようによく見えた。
 ラウジングは固唾を呑む。姿は見えないが、幾人もの産の神がそこかしこに倒れている気配があった。彼女に打ち倒されたのだろう。まだ命は取られていないが、このまま炎の中に取り残されたらどうなるかは言うまでもない。受けた傷のことを考えても、少しでも早い救出が必要な状態には違いなかった。
 やはり、彼女は強い。この数を相手に立ち回れてしまう点だけでもそう言い切れた。何より戦い慣れしているのは明白だ。単なる一対一の戦いでは得られない場数からくる経験がなければ、こんな場所でこんな状況でこの人数を相手取ることなどできない。まさかラウジングも、自分がたった一人で彼女と向き合うことになるとは思わなかった。
 それでも逃げ出すわけにはいかない。彼は腰から下げた短剣に手を伸ばした。何のためにこれを託されたのか、忘れてはいない。こういう場合も考えられていたに違いない。すると彼女は興味深げに瞳を細めた。
「エメラルド鉱石か」
 ぽつりと漏れた呟きが、彼の耳にも届く。まさか一目で見抜かれるとは思わず、剣を握った彼はつい瞠目した。エメラルド鉱石の短剣。精神を大量に込めることができる類い希なる武器ではあるが、見た目は他の物と変わらない。手にすることでかろうじて何かが違うとわかる程度なのに。
「またとんでもない物を持ち出してきたなぁ」
 紅に輝く泉を背にしたまま、彼女は微苦笑を浮かべる。やはりこの武器の威力についても知っているのか。彼らの本気が伝わってしまったとなると、油断してくれることは期待できなかった。
 手に力を込め、彼は息を詰める。狼狽が一番の敵だ。彼女の体力や精神量も無尽蔵ではないだろうから、必ず勝機はある。そのために犠牲が出ることを厭わず、今まで待っていた。