家令の痩せぎすな腕が、まるで鋼のように彼女の手をとらえている。 家令は常の穏やかな無表情のまま、床に散らばる薔薇の花を丹念に拾い上げ、片手が塞がっているにもかかわらず器用に花束にして、リディアに渡した。 「リディアさまのおこころづかい……伯爵閣下はさぞお喜びになられることでしょう」 そう言って、まろやかに微笑む。 だが……家令の声には、どこか得体の知れない毒が含まれてはいなかったか? それから…… 彼はいつここへ来たのだろう? 足音など、聞かなかった……。 「手を……離してくださいませんか? アルフレートさん」 リディアの声は震えていた。 「もうすぐ。日が落ちます。閣下もほどなくお目覚めになるでしょう。さあ、どうぞこちらへ」 家令はリディアの求めを黙殺した。 リディアの手から燭台をもぎとり、彼女の肩を抱くようにして、家令は通路の奥、黒檀の扉を指さした。 リディアは、逃れられないことを悟る。 黒檀の扉の向こうに待つのは、罰だ。 『見る禁』を犯した代償。 それだけは、間違いなかった。
|