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娘は、チシュミジウ公園の並木道にあるベンチに腰掛けて、鳩をぼんやりと眺めていた。 |
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吸血鬼の物語として、短編集として、楽しめる一冊でした。 全部で6つの作品が掲載されていますが、ひとつひとつ物語のテイストや吸血鬼のイメージが異なるのが魅力的です。 「血族」は吸血鬼の美しさが夜ごとに増していくような物語で、耽美的な雰囲気を味わえます。 「黒い海、祈りの声」は人間と吸血鬼の怖さが迫ってくるホラー小説。さまざまな意味で怖い。 3作目は「血族」と「黒い海、祈りの声」に登場した吸血鬼たちをつなぐ幕間の物語。シリアスな雰囲気が続いていたところにゆるやかな空気が流れます。この次の、少し長くて重いお話を読む前のひと休み。 4作目は異世界の吸血鬼を描いた「望まれざる帰還」。隧道工事というマニアックな内容をメインとしながら、神話と歴史、その隠された部分に光を当てた作品。短編集の中で唯一他とつながりのない物語。全部同じ世界感で通したほうが一冊としての一体感は出ると思うのですが、そこに別の物語を入れることで不思議な面白さが出ています。お話自体も一番長く重く、読み応えがありました。 5作目、「ブカレスト、海の記憶」。ひとの視点から語られた吸血鬼モノ。ゆるやかな感情が渦を巻いてとき離れていくような物語。 そして終幕は「血族」「黒い海、祈りの声」「ブカレスト、海の記憶」に登場する吸血鬼たちの夜。吸血鬼たちの物語はこの後も続いていくのだと予感される終わり方で、サブコピーの「吸血鬼たちの夜の物語集」にぴったりでした。 吸血鬼が好きな人にはもちろんですが、吸血鬼モノは読んだことがない、という人にもおすすめしたい一冊です。 それから、短編集をつくってみたい、または今まではとはちょっと違う短編集を、と思っている人にもおすすめ。 物語ひとつひとつのテーマがはっきりしていて、そのカラーがきちんと出ているのはもちろん、それらをつなぐ物語にも役割をもたせています。読者の呼吸を意識した掲載順でとても読みやすかったです。 また、前述した通り、短編集の中にひとつだけ別世界の物語がありますが、おそらくその物語と他の5作品の重さ、みたいなものがちょうど同じぐらいな感じで、それが本の真ん中にあることでとても良いバランスが保たれた一冊になっていると思います。ここまで計算してつくられたのだとしたら凄いなぁと。 自分が短編集をつくるときにお手本にしたいです。 | ||
推薦者 | なな |