正しい”友好の証”であることを望んだ少女が灯すひかり
書籍名 北灯り
作家名 加条霧影
購入イベント 文学フリマ大阪
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紹介文
草原の民レンエンと北方の民イエッツェン。途絶えがちだった交流を支え、結束を強めるために両部族間で婚姻が結ばれることに。
草原から山を越えはるばるやって来た少女ドゥットは、イエッツェンの男衆を前に言う。
「あねさまの代わりに、あたしが嫁ぎます」

押しかけから始まる歳の差婚姻譚。
と言っても単なるラブストーリーではありません。
部族間の交流を名目にした婚姻ですから、見ず知らずの土地を訪れる少女にとっては政略結婚とでもいうべきものだったでしょう。身体の弱い姉に代わって故郷を飛び出したドゥットは、夫がどんな人物であろうとも、異郷の地がどんなところであろうとも逃げ出せず、子を産み、友好のあかしとならねばならない。その重圧は相当のものだったに違いありません。
だからこそ、彼女の気丈さや行動力、思慮に感じ入り、妻とすることを受け入れたセージェオンが忍耐強く勇敢な良い夫であることに安堵し、幸あれと心から思えるのです。

また、草原で暮らしていた快活なドゥットと、イエッツェン族長の息子セージェオンを通して細やかに描かれる、異なる文化の交流や寒さの厳しい土地での暮らし、人間模様が素晴らしいです。
朗らかで健やかなドゥットが慣れぬ土地の暮らしに馴染んでゆくのを言葉少なに見守るセージェオンの眼差しがあたたかく、ふたりの間に築かれる信頼、育まれる情は互いに最も良いかたち、重さなのでしょう。
持ち前の芯の強さで歓迎されるドゥットですが、もちろん万事がうまく運ぶはずもなく、セージェオンに恋をする娘ミンニとの摩擦もまた、物語の大きな軸となります。
生きている限り逃れ得ない、人と人、思いと思いのぶつかり合いを経てお互いの存在を確かめ、頼りにしてゆくドゥットとセージェオン。
とびきりの民族調ファンタジー、そして甘すぎないのに奥深い味わいの恋物語です。

ちなみに、恋敵として描かれるミンニですが、続編「草海 空海」では彼女のその後が語られます。ドゥットとセージェオンがハッピーエンドを迎え、ミンニだけが置き去り……?という当て馬感を解消する続編もぜひ併せて読んでみてください。


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