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今年出逢った、わたしのための特別な本を紹介します |
書籍名 |
ELEKTRAS TOD |
作家名 |
キリチヒロ |
購入イベント |
ZINE展inBeppu |
タグ |
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紹介文 |
キリチヒロさんを知ったのは2015年の冬で、その時は彼女の本は1冊も持っていませんでした。 2016年、彼女の本を全部で5冊購入し、4冊読了(1冊は読み途中)。ブログやアンソロジー掲載作品などを含めるともっとたくさんの作品を読みました。 どれも心に残る、あるいは自分の人生のどこかに関わったような気持ちになる、素敵な作品ばかりでした。 「今年一番好きだった本」ときいたとき、いくつか候補があったのですが、最終的に選んだのは彼女が大学生の時に書いた卒業論文を本にした『ELEKTRAS TOD』でした。私は小説を読む方が好きなのですが、この本はちょっと特別でした。
内容は2012年、オーストリアのグラーツ歌劇場で上演されたオペラ「エレクトラ」の演出に関する卒業論文です。 これを読みたいと思ったのは、もちろんキリさんが書いたもの、というのもあったのですが、私自身が昔仕事でオーストリアを含む中欧三国に約1か月ほど滞在したことがあったからというのも大きかったと思います。また、ヨーロッパの音楽祭などでの演出が非常に派手というか日本だったら考えもしないようなことをやるので、それを紐解くものに触れてみたいという気持ちも。
実際読んでみて、まず論文というのがこんなに誰にでもわかりやすく書くことができるのかとびっくりしました。専門卒なので論文を書いたことはありませんが、仕事で医学関係の論文には目を通すことがあり、読んでいても全く意味がわからなかったので……。分野が違うというのはあるかもしれませんが、それでもまったく専門知識のない私でも、内容を読み進めるのに問題がない程度には理解できるというのは凄いなと思いました。さすがにドイツ語はわかりませんでしたが、それ以外は本当にわかりやすくて、エレクトラというオペラを一度も観たことがなかったのに、読み進めていくうちにどのような物語でどのようなシーンが重要なのかなどということが理解できました。構成が素晴らしいのでしょう。
ただ、私がこの本を読んで良かった、「今年一番好きだった本」に選んだのは、この論文のメインである、実際にこのオペラを演出した演出家へのインタビューの内容と、そこから導き出したこの論文の結論が、創作活動をしていくうえで、考え続けていくべき大事なことだと感じたからです。 下記に、私が一番読み返した演出家へのインタビューの一部を引用します。
“それはある絶対的解釈のみがあるわけではなく、別の視点からも見ることができる。私が望むのもまた、さまざまな人々がさまざまに見ることだ。私は一義的解釈しか許されない演劇は好まない。”
この言葉は、私がいろんな作品に触れる中で感じていたことを、明確に言語化したもののようでした。それを海も時間も超えた場所で、プロの演出家が考えていた、ということが奇跡のようでした。恥ずかしながら、私のために書かれた本だったのではないかとすら思えました。 上記の引用文から続く、論文の結論もまた素晴らしく、読み終わったとき、最初から最後まで一本の芯が通った一つの物語を読んだようでした。 そう、この本を読んでもう一つ凄いなと感じたのは、論文というものはどこか書いた人の感情が感じられない無機質なものというイメージが私の中にあったのですが、この『ELEKTRAS TOD』には、著者の熱が込められていました。その熱が、最初から最後まで読者をしっかりと掴んで離さなかったので、まるで物語のように感じられたのかもしれません。
最後に、著者のキリチヒロさんへ 素敵な本をありがとうございました。 今後のご活躍をお祈りしております。
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