BLのセオリーを盛り込んだ、極上のエンタメ。
書籍名 橋向こう、因縁の町
作家名 まゆみ亜紀
購入イベント ひみつ
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紹介文
・あらすじ
人よりも少し快楽に弱い佐和野雪路の住む街の「橋向こう」、いかがわしい夜の街は死者相手にも色を提供する街だ。
雪路は、ある日「体を落として」幽体になってしまい、糸江という男に拾われる。そのかわりに糸江に、「体を一割もらう」と、いやらしいことをされる。
数日後、再会した糸江は「グーで殴りたい相手」淵上を探しているので、雪路に囮になれと言ってくる。
囮作戦は失敗に終わり、いったんは糸江から離れる雪路だが、級友と映画を見に行ったとき、見知らぬ男に痴漢をされ、快楽を覚える浅ましい姿を級友に見られて逃げ出してしまう。糸江のいる喫茶店に逃げ込むと、糸江に「ぜんぶおれのせいにしていい」と言われ、その言葉のおかげで気持ちが一気に楽になる。
いっぽう、雪路に協力してくれる同級生・川崎も、「橋向こう」に知り合いがいた。川崎に頼まれ、また糸江の願いをかなえるためにふたたび「橋向こう」に行く雪路と糸江。そこに淵上が現れ、予想もしなかった結果へと導かれる──。【あらすじここまで】

 好きな本を好きなだけ語ることにします。
読み終わって、まゆみさんはリリカルな作風もお持ちですが、この作品のようにミステリ仕立てのエンタメも描かれるんだ! と気付き、新しい発見でした。
話の組み立てが秀逸で、キャラの行動を見守っているうちに、あれよあれよというまに淵上と糸江さんの因縁の対峙シーンのラストまで連れて行かれます。
(序盤から、雪路の快楽に溺れるさまや、それを認めたくなくて反抗するようすは健気だし、挑発するような糸江さんの態度も気になる、というふうに)
 キャラ面では、とにかく糸江さんが魅力的。見目麗しく、仕事をバリバリしてそうな外見の三十男なのに、クリームソーダを食べるギャップ、主人公・雪路に迫るときのなにもかも見透かしている感じ、さらに過去になにかを抱えている謎めいた部分。ヒーローとして、申し分ないでしょう。
 糸江さんに「淫乱」と言われる雪路ですが、このキャラに寄り添いながら読むのは、とても楽しかったです。欲望に負けまい、と踏ん張りながら、あっけなく陥落してしまう姿がかわいらしく、いじらしい。耐えに耐えて、快楽に屈してしまう過程が仔猫のようでキュートでした。
 また、同級生の川崎くんも、友情に厚く、もしかしたら雪路を狙っていたかもしれないという点でドキドキさせられました。雪路に「いいやつだ」と思われている時点で、友情エンドなのがかわいそうですが。
 糸江さんの目的である男・淵上は、あることで雪路とも関わってきます。その辺は、本を読んでくださいとしか言えません。

 また、同人誌の場合、安心して読書を進める要因のひとつに、文字組みや紙の質感なども重要なポイントです。
「橋向こう」はPP貼りのカバー付き。読みやすい大きさのフォントと余白で丁寧に文字組されています。特に誌面は、そのまま書店に並んでいても遜色ない出来映えで、作者の本作りに対する真摯な姿勢がよくわかります。
 版組も装丁も、肝心の中身も大満足の1冊でした!


 
 


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