きれいはきたなく、きたないはきれいなBL俳句集。
書籍名 地獄百題
作家名 ネムカケス
購入イベント 文学フリマ東京
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紹介文
「薄氷を割るぼくら恋地獄いき」

<ぼくら>の転落するような様を見る一句から始まるBL俳句集。
俳句に暗い私が誤読を承知で、本書について書きたく筆を取りました。
誤読を承知の上でも尚、この俳句集が美しく残酷だから。

俳句は既に風景を写すだけでなく、人々の表情を写せるようになったことに気づいて驚きます。
もはや俳句は人の内情を描けるのだということが、今更かも知れませんが、私にはとても新鮮で。
百題の地獄的様相を魅せた一句一句が独立しながらも、連句の雰囲気も魅せてきて、従来のBLにある人間の関係性を垣間見せてくれて。
人間の関係性を、きちんと時間を追って読者に物語を空想させてくれます。
そんな句集だと思います。

もちろん、一句一句、特別好んだものもあります。
「眼鏡をはづす銀河がふたつある」
「木犀のほろほろこぼれ遺骨めく」
「死んでもいいよ雪の深さにもつれあふ」
「雑煮して兄かへるいつかかならずかへりくるを待たう」
「ふらここのここで虚空を去るここち」

本句集は、二部に別れていて、私の読解力の不足もあるでしょうが、?部冒頭の一句に今までの読みと不意に外されたことに今でも驚きます。
「次子転生末子戴天冬銀河」
私はどうも、この<次子転生>に心をやられています。
長男と次男の句集ではなく、次男と末子の句集ということだと思い、読みを転換しました。
するとこの不在の長男が何とも一句一句に影を忍ばせてくるようになって、?部は更なる喪失と畏怖の気持ちを持って読みました。

何度も読み返し、意味を、関係を、音律を咀嚼したくなる句集になりました。
今年、読ませていただいた中でも特筆して大切な一冊になりました。
読者の目を身体を心を、句集の美男たちとともに地獄へ引き込む大変な一冊を読ませていただきました。

拙い感想ながら、感謝の気持ちを込めて。
ネムカケス様、素晴らしい句集をありがとうございました。


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