尼崎文学だらけ
ブース June3
温室
タイトル ダンスタブル嬢への幻想書簡 ― 金華青楼化鳥娘 ―
著者 篠崎琴子
価格 100円
カテゴリ 掌編
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紹介文
※委託作品です。BLではありません。

洋形封筒/100円/近代幻想譚/書簡体小説

20世紀初頭、ロンドンより投函。
この書簡は、世紀末を超えてなお幻想譚を蒐集する少女へと送られた、一通の私的なたよりです。
便箋につづられているのは、彼女の手元に届くようにと、送り主がしたためた、現実の隙間で息をひそめる「物語」。
幻想蒐集者ダンスタブル嬢へ語られる言葉を、100年後に生きているあなたは、いかようにかいまみますか。
お手に取って、つまびらかにしてみてください。

親愛なるアメリア・ライザ・ダンスタブル嬢

 先日は手紙をありがとう。あなたの発見は本当に意外なことでした。
 十年前におばあさまが語り聞かせてくださった物語と似た話が、まさか千夜一夜物語にも収録されているなんて。確か、茨の城で眠ったきりの姫君の話でしたね。
 東西で似通った話を語り継いでいるのにも驚きましたが、なにより、親愛なる従妹殿。あなたの探究心に拍手を送りたいです。
 返礼というわけではないのですが、以前、二十世紀のこの現代における、幻想めいた物語を蒐集していると言っていましたね。上海育ちの友人が、幼少の折に興味深い体験をしたそうなので、あなたにも伝えます。
 彼の言葉を借りると、かの地にしつらえられた金華青楼という――意味合いは後述しますが、うら若い女性への手紙に記すのは気が引けます。叔父さまが見逃してくださいますように――楼閣に、鳥に化ける娘が棲んでいたと……そのような、まったく不可思議な話です。
 聞き語りのそのままに書付を取ったので、清書して送りますね。次の紙から三枚分は、アメリアの好きな幻想譚です。
 あなたの蒐集に加えるため、題をつけるとするなら、そうですね。友人の言葉を借りるなら、「金華青楼化鳥娘」とでもまとめるべきでしょうか。


はらはらと散る
まず目を引くのはつくり。
まさしく手紙。ざらりとした便せんに綴られる手記。
不思議な体験は不思議なまま、その一瞬を伝える。
推薦者まるた曜子
推薦ポイント表現・描写が好き