現在 「キャンディみたいな甘い言葉を、シャワーみたいにきみの頭の上に降り注ぎたいんだ。だから僕の側にきて」 作詞 ジェシー・ウェストン ジェシーは音楽の才能がある。だから俺たちは生活ができる。ジェシーのボーカルがあるから存在する俺のドラム。ジェシーが作る歌詞があるから存在する、ロブのベース。ジェシーのハーモニカがあるから存在する、メアリーのキーボード。ジェシー。ジェシー。ジェシー。アラバマ生まれの二十三歳。身長は百七十五センチ。体重は五十七キロ。大好きなバンドはスリップノットとマリリン・マンソン。そのくえにジェシーはインタビューでこう答える。ジェシー。きみが尊敬するロックバンドは? 「オアシスとレディヘット。目指すところはいつもそこかな。でもやっぱり愛してやまないのはニルヴァーナ」 俺はそれを聞く度に、心の中で悪態をつく。ビョーキの嘘つきジェシー。あんなおっかね ぇバンドが大好きなくせに。オアシスとレディオヘッド?聴いたことねぇだろうが。俺たちのバンドはオルタナティブだ。お前が好きなやつらとは全然違う音楽だ。ニルヴァーナは好きだけど。俺とジェシーが愛してやまないバンド。 ジェシー・ウェストンがいるからこその、俺たちのバンド。ジェシーの歌声は変幻自在だ。たまに十六歳の女の子のように繊細だったり、五十五歳のオヤジみたいに図太かったりする。いや。声を変えるとかそういうんじゃねぇよ。基本ジェシーは鼻にかかったようなかすれた声で歌うんだ。でも、ひとたび聴けば俺が言ってることは分かると思う。耳が孕むってやつさ。観客たちはうっとりとジェシーを見つめる。スポットライトに照らされたジェシーの額。ジェシーの金髪と同 じ、色素の薄い睫。カラー・コンタクトを入れているのかと思うぐらい、真っ青な目。鼻に開けているピアスは、銀色のクロス。右の唇に銀の輪のピアスを開けている。そして、舌にも開けている。舌のピアスはジェシーがしゃべると、たまに、カチカチと音を慣らす。ゴキゲン妖精が歌ってる。とジェシーはその音を楽しそうに鳴らす。 「マーティ」 カチ。という音。俺はびくりと反応する。スタジオで練習していたとき。ロブとメアリーはまだ来ない。俺がスタジオに入ると、ジェシーだけがいた。床の上に寝そべって、ぼんやりと天井を見上げていた。
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