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しゃく と薄氷のうつわが溶けだして不穏な色が広がっていく |
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『色めがね(愛猫ミーコ)」とはかわいらしいタイトルである。作者の名は「ちあの」という。これもまたかわいらしいし、薄緑の背景にピンクのめがねの表紙。きっとかわいらしい短歌なんだろう。そんな期待の色めがねをかけて、ページをひらく。 そうして最初に飛びこんでくるのは、連作「承認欲求」。 振り下ろす力加減が下手くそでまだ壊れないメールボックス メールボックスはなかなか壊れないらしいが、こちらの色めがねは、一瞬で粉砕される。 ピピピと繋がってしまったことですし 同じ車両に乗れません、もう 足してから割ったらきっとふつうです あなたの部品としてのことばは たべたいがたべてしまうとあえなくてあえなくなるとたべられません やわらかい言葉や、ひらがなにひらいてつづられる言葉のひとつひとつに、ぐらぐらとあたまが揺れる。殴りつけられた直後には痛みも衝撃もわからないのに、数秒後に肉体が受けた攻撃を認識するような感覚が間髪おかずにくりかえされて、こちらの色めがねは粉々に砕かれつづける。 そうして、最後の連作「畏れ」にたどりつくころには、手持ちの色めがねはうしなわれているような気分になっているのだが…… こんな夜にはありうることだ 遠くからおういおういと近づいてくる 怖いことを怖いことだと知りながら怖がらぬのは怖いことです 四国では小さな箱の中身には興味を持つな じっとおそれよ 目には見えぬけれど、たしかに存在する、「なにか」――暗闇に、というよりはわたしのなかのうすぐらい部分に、息をひそめている声、足音、気配。その生々しさに寒気がして、ページから顔をあげて何度も部屋のすみを睨みつけてしまう。なにも見えませんように、と祈っているくせに。 そうだ、これは色めがねだ、と思う。「わたしの目はこわいものを見たりはしない。目に見えぬものを、見てはならないものを決して見たりはしない目だ」という、色めがね。 だけどこれまでの色めがねは粉々になってしまっている、これだって壊されてしまうことはもうわかっている。 タイトルを思い出してほしい。 『色めがね(愛猫ミーコ)』。 カッコ書きにかくされたものを、色のついたレンズで、そうして肉眼で、じっと見つめれば、見えないものが見えてしまう。 | ||||||||||
推薦者 | 孤伏澤つたゐ | |||||||||
推薦ポイント | 世界観・設定が好き |