尼崎文学だらけ
ブース 大衆小説3
夜月書房
タイトル 三分間読書
著者 綾月 宮司(夜月書房)
価格 500円
カテゴリ 掌編
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紹介文
隙間の時間に物語を――

三分間で読める物語の詰め合わせです。

様々なジャンルの物語が収録されております。
手にとって頂けた方の隙間の時間が、物語で埋まりますように。

様々なイラストと綴られる物語を、お楽しみ頂けたら幸いです。

 こんなに美味いものを食べたのは初めてだ、と俺は思った。
 目の前にはコース料理における魚のメイン。ソテーされた白身を一口頬張ると、バターの香りが全身を駆け巡って、鼻から抜ける。その前に出て来た前菜もスープも最高だった。前菜はサラダだった。俺からすればサラダなんて葉っぱの盛り合わせぐらいにしか思っていなかったが、その認識は今日変わったと言っても良い。
「次は――」
 ウエイトレスが料理を運び説明をするが、全く解らなかった。俺が解るとしたら肉が牛なのか、豚なのか、鳥なのか、それぐらいである。
 ただ、そんな俺でも、こんな素晴らしい料理の前で帽子を被りながら食事をするのは申し訳なく思った。だが、これは仕様みたいなものだ。

(中略)

 十数分後、俺は食後のコーヒーを楽しんでいた。これもこだわりを持って淹れられたものだろう。嫌な苦味がなく、香り高い。俺がいつも飲んでいるものとは天地の差だ。それを飲みながら、本日のコースを振り返っていた。
 幸福、いや口福だった。

「ちょっと良いかな?」
「はい?」
「素晴らしい料理だった。是非ともシェフに挨拶をしたいんだが」
 コーヒーを飲み終えた俺はウエイトレスを呼びつけ、そう言った。
「かしこまりました。少々、お待ち下さい」
 このようなことに慣れているのだろう。ウエイトレスは丁寧に礼をし、奥のキッチンへと入って行った。反対に言った俺の方は慣れていないので、少し緊張をしている。恥かしい限りだ。
 狭い店内だ。シェフはすぐに出て来た。俺も席を立つ。
「どうも、私が――」
 シェフが俺の前に立った時だ。さすがに失礼だろう、と思い、俺は帽子を取る。そして――胸ポケットに隠していた拳銃を抜き、躊躇無く引き金を三回引いた。
 狭い店内には破裂音の残響。そして、鉛玉によって倒れるシェフ。そんな中、俺は硝煙の香りが先程までのコーヒーの香りを消してしまったので残念に思っていた。
「最高だったよ、シェフ」
 俺は聞こえはしない賞賛の言葉を、彼に送った。
(続く)


タイトル同様三分程で読める短文小説
10作品からなるショートショート。
辛口から甘口までジャンルは幅広い。
そこのキミ、しっかり読まないと、オチが
わからないよ!
推薦者第一回試し読み会感想
推薦ポイント物語・構成が好き