尼崎文学だらけ
ブース June2
ヨモツヘグイニナ
タイトル
著者 孤伏澤つたゐ
価格 500円
カテゴリ JUNE
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紹介文
水と水辺をめぐる三篇の物語

山村の怪異譚「ネムノタキツボ」
砂漠を旅する青の民とらくだの幻想文学「らくだ」
魔女と水辺のおとめの妖精譚「ローレライ」

人ならざるものとの交歓のきろく


★ヨモツヘグイニナの本がお初のかたにもおすすめです

 砂の山々がつくりだす地平線を深紅にそめて、太陽がかくれる。ほのおのような紅が、かわいているはずの砂漠に水を呼ぶこの矛盾を、ねむる青の民はしらない。
 夜が来た。濃紺の空。太陽よりもずっとちいさな、けれど確実な脅威である月が空にはあり、砂の一粒一粒をぬらす。銀色に砂丘は照らされて、しめりけを帯びた砂がさらさらとながれる音がする。
 銀色の砂のうえで、わたしはちいさくからだを揺らす。わたしがからだを揺らすと、歌いだすティエニヴはいまはねむっている。腹のに結露していたしずくが、ぽつりとおちる。
 わたしが発することができる音は、この露が砂におちる音だけだ。
 この音を聞くたび、わたしはなんどでも声帯のないことを発見しなおす。らくだには声がない。そして、らくだには言葉がない。
 ――わたしが水音をぽつぽつとさせているということは、このうえにいるティエニヴは守られているということだ。
 わたしはよいらくだ。わたしはよいらくだ。
 わたしから発せられる水音を、わたしはそう聞く。
 夜はながい。幾度も幾百も幾千も、わたしは、わたしはよいらくだ、と水音を聞き、ここにとどまるほかない。
 むかしのように、すこしでもはやく夜を明けさせようとあかるいほうへ、あるいてはゆけないのだ。夜のかなたにあるほのかなあかりは、太陽の光ではない。白の国のものたちの棲み処のあかりだ。地平線はまだのこされていても、砂漠はせまくなった。はてしないように見えるこの地平線のむこうには、たしかに白の国のものがラシーンの群れがいる、水がある。
 わたしたちは、夜から距離をとることすら、できない。
 砂漠に水がみちてゆく。
 雨のようにきらめきつづける星の光を受けて、ティエニヴはねむっている。

    「らくだ」より


わたしはいいらくだ。
「ネムノタキツボ」「らくだ」「ローレライ」からなる短編集。
特に推したいのは「らくだ」。
構想ゼロ秒、初稿30分というのはすごい……。
一番目を惹かれるのはティエニヴとらくだの関係なのだけど、
それはいいところのひとつで、
つまるところ、すごく好きなのだけど何が好きなのか分からない……。
これは文学ではなく芸術だと思う。
意味もなく中にたゆたい触れていたい。
推薦者第0回試し読み会感想
推薦ポイントとにかく好き

ひとときが”今も”私の中で終りをむかえていない理由
3作品が収録されている中でとりわけ”ネムノタキツボ”が心に残る。
私と”サキ”の少しの時間ひとときが長くみじかい。
静かに流れる時間を味わってもらえればおもしろいと思います。
伝承と物語がからみ、結末にはおどろいた。
交差しているかいないのか、私と”サキ”の気持ち。
推薦者第0回試し読み会感想
推薦ポイント表現・描写が好き