尼崎文学だらけ
ブース ファンタジー4
WindingWind
タイトル 夜を守る者達
著者 風城国子智
価格 300円
カテゴリ ファンタジー
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紹介文
優しき獣との盟約を胸に、平原と外の世界とを隔てる砦『始まりの都』を魔物の襲撃から守る『夜を守る者』の、終わりから始まりまでの物語。Web企画『宿語りのシーガル(http://wonmaga.jp/project/winter2015/index.html)』に寄稿した物語「夜を守る者」派生作品。
※6/12開催『第二回文学フリマ金沢』新刊。

 と。ブランの視界端を、重い影が過ぎる。振り向いたブランの瞳に映ったのは、今にも城壁を、都全体を飲み込む勢いの、東の塔より高い闇の壁。止めなくては。自身の職務を思い出し、剣を抜く。しかし、剣一つでこの重苦しい闇を止めることができるのか? いや、止めなければならない。それが、『始まりの街』の夜警隊『夜を守る者』の、責務。それを、果たすためには。
 胸で揺れる、大振りの牙を、左手でそっと掴む。だが次の瞬間、強い衝撃とともに、掴んでいたはずの牙は歩廊の石床に転がった。そして。
「隊長!」
 ブランと黒い影の間に立ち塞がった、小柄な影に、声を上げる。ブランの左手を叩いた、カイの右腕の震えに気付くより早く、カイの姿は白い大狼の姿に変じた。
 獣の彷徨が、夜を震わせる。飛び上がり、身を捩った白い獣が闇の壁をずたずたに切り裂く様を、ブランはただ呆然と、見詰めていた。
 カイが変じた、白い獣は、都に襲いかかる闇をいとも簡単に駆逐する。幾許も経つことなく、夜より暗い闇の壁は都の周りから消えた。そして。薄明が、白い大地の上に降り立った白い獣の姿を輝かせる。次の瞬間、大地を薄赤く染めた陽の光が、獣の姿を淡く溶かした。
「隊長!」
 叫ぶブランの視界に映ったのは、大地に転がる一対の牙。かつてはカイであったその牙に、ブランの視界はたちまちにして、霞んだ。