尼崎文学だらけ
ブース ファンタジー4
WindingWind
タイトル 赴く理由を
著者 風城国子智
価格 0円
カテゴリ 掌編
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紹介文
WindingWindお試し無料配布冊子。子智さんがあちこちに寄稿した作品を中心に編成。

 小さな町を抜ける直前、目の横に広がった小さな広場に、はっと足を止める。磨かれた石が規則的に並ぶこの場所は、祖父の話が正しければ、この町に暮らす人々の為の、墓地。向こうに見える石造りの小さな小屋は、納骨堂。この町の人々は、死者を墓地に土葬し、時間が経って死者が骨だけになった頃に遺体を掘り出し、綺麗に洗った骨を死者の形にきちんと並べて納骨堂の地下に納める風習を持っているらしい。祖父の声を、グレンは噛み締めるように思い出した。グレンが暮らしている場所にあるものとは異なるが、それでも、静謐さは、同じ。蟠りを飲み下し、ここに葬られた人々の魂が安らぐよう、グレンは声を出さずに、祈った。大事な友人を殺した人々と同じ血が流れる者達が葬られている場所だが、それでも、死者に罪は無い。それも、祖父から教わった、言葉。
 と。獣すらいなかったはずの場所に感じた気配に、はっと身を翻す。グレンの斜め後ろには、いつそこに現れたのか、背の低い、それでもしっかりとした身体を持つ少年が、月の光に紅い顔を晒していた。
「誰……」
「何故、ここにいるの、グレン」
 グレンが尋ねる前に、見知らぬその少年が、グレンの名を、呼ぶ。次の瞬間。少年は、グレンの前から唐突に消えた。
「え……?」
 驚愕が、途切れる。
 グレンの周りにあったのは、見知らぬ木々の塊と、冷たくよそよそしい、夜空。