囲まれた。感覚でそれを知るより早く、自分が指揮する小隊の一番前を歩く剣士の前に飛び出す。 「走れっ!」 隊員にそう叫ぶと同時に、森に生えた丈高い下草に隠れていた白服の騎士を、ラウドは一閃で断ち切った。そのラウドの剣捌きが戦闘開始の合図だったかのように、森の木々の影、下草の影から、白い制服を身に着けた新しき国の騎士達がわらわらと現れる。追われていることには、気付いていた。だが待ち伏せまであったとは。走りながら舌打ちする。しかし今は反省する時ではない。部下達をこの危機から逃れさせることが、第一。昼でも薄暗い森に微かに光る刃の中を、ラウドは部下を庇いつつ走った。 と。 「わっ!」 木の根に躓いたのか、ラウドの横で、従者であるクロムが蹌踉けて地面に倒れる。そのクロムに向かって来た刃をその持ち主ごと地面に沈めるなり、ラウドは起き上がった従者の腰を左腕で掴み、走る足に力を込めた。だが。剣を持った右腕を、鋭い物が掠める。次に全身を駆け抜けた痺れに、ラウドの身体は従者を庇ったまま地面に激突した。こんな密集した場所で投げ槍や弩を使うとは、味方に当たったらどうする。不快という感情が脳裏を過ぎるのを覚えながら、ラウドは何とか腕に力を込めて跳ね起きた。次の瞬間、視界に映った影に、ラウドは左腕で従者を自分の背の方へ庇いながら右手で近くに落ちていた誰かの剣を掴む間も無く頭上に掲げ、落ちて来た鋭い刃を額ギリギリで止めた。 「ふん」 鼻を鳴らす音が、すぐ近くで聞こえる。 「痺れの毒が、効いていないのか?」 この声は。顔を上げて確かめなくとも、ラウドが留めている刃の持ち主が、新しき国の王、獅子王レーヴェであることは、ラウドにはすぐに判別できた。ラウドの足下では、ラウドが無理に身体を引っ張った所為かバランスを崩して倒れたクロムが呻いている。彼だけでも、守らなければ。力の入らない腕でレーヴェの剣を何とか押し留めながら、ラウドは唇を噛みしめた。だが。限界が、来る。意志に反して、ラウドの腕は不意にその力を無くし、持っていた剣はふわりと地面に落ちた。そして、ラウド自身も。
|