尼崎文学だらけ
ブース 純文学A
白昼社
タイトル soyogui, その関連
著者 泉由良
価格 500円
カテゴリ 純文学
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紹介文
掌編と詩と短篇集(106頁文庫本・カヴァー画像はイメージであり、実物とは異なります)
(カラー巻頭画・魚矢ミリ/ほか画 深森亜未森)

「そよぎ」
「くらげ骨なし」
「鉢と温室」

『適温適度の遊書部2011』
  「なんて可愛らしいのでしょう」
  「素敵な詩人さん」
  「カラフルネイム」
  「コンパスでダーツを」
  「一枚だけ下さい」

「そよがず」

about solar
  「空について」
  「何処までも世界」

秋の音符
  「ミッシェル」
  「カセットテープ」
  「あきうた」
  「ひととせ廻り」
  「夜明け」

「ルルカのの点描画」

世界に対する戦いと、自我と、タナトスと、愛情と、文章の戯れと、小説です。

ソヨギという服を持っていた
二枚の羽根を自分で縫い付けたそれを着ると
私は翼のある女の子になった
漢字にするとそれは戦着……そう、soyogui. (「そよぎ」より)


 誘拐犯が、逮捕された。殺人犯の容疑者でもあるらしい。逮捕されたのは、あたしのお兄ちゃんだ。(「鉢と温室」より)


 もう、大変なの、全部発芽するんだもん。こんなちっちゃいプランタからなのに大量にどぉっと芽が出てきたの。それにね、やっぱり生存本能っていうのかな。凄い感じで伸びるの。双葉のときからもう変な状態だし、本葉になるともう、プランタは、かなりやばかった、もうやば過ぎ。あさがお地獄って感じ。でもお小遣いじゃプランタは増やせないし、家のひとは適当に抜いてしまえとか云うんだけどそんなの出来ない。でね、あさがお地獄だったけど花も咲いた。小さかったけれど、咲いた。
 でもね、種子がまた出来るわけ。あさがおも賢いからさ、種子をいっぱい結ぶより、強くて大きなのをひとつ結べば良いんじゃないかと考えたっていうか、つまりその年は黒々と大きな種子がとれました。でもやっぱり多いんだよね。だって、次は三代目の種子だもの。
 でもさ。分け隔て出来ないよ。出来ないとは思わない?
 種がここにあるのに、きみは貧相だから植えずに捨てます、なんて宣告、出来ないでしょう。
 だからその、アサガオ・サヴァイヴァルはずっと続いたのね。サヴァイヴァルって生き物を狂わせるのかな……生存本能とかさ、色々自分が変わっちゃうのかな?種子も変わったけれど、葉の形がだんだんおかしくなっていったの。突然変異のミニミニ版みたいな感じなのかな。だからね、なんだかもう、みんな変な形になって、こんな形になっちゃった。 (「一枚だけ下さい」より)


存在するということはなんと不確定で不安定な状態だろう。在るということ。消えないということ。その意味と儚さが季節折々につけ、雨雪となって人間の大地に降り注ぐ。(「空について」より)


 あたしは今でも「愛している」って云うのは、怖い。死んだって怖いものは治らないらしいですね。馬鹿みたいだよね。分かっているのに。愛されていたんだなあって心から思います。そのことを考えると、涙が出そう。
 でもやっぱり、あたしからは云えなくて、怖くて。
 うん、でもね。今でも好きだよ。なのになんでああいう風なのは云えないんだろう。泣きそうだよ。
 もう、なかなか逢えないね。
 でもね、好きです。
 それから、ありがとう。(「ルルカの点描画」より)