尼崎文学だらけ
ブース 企画本部
おとそ大学パブリッシング
タイトル Love Robotics
著者 生方 凛
価格 500円
カテゴリ JUNE
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紹介文
アンドロイド嫌いの珈琲店店主×痛みをしらないアンドロイド 
◇あらすじ◇
12月のある日、羽瀬統也の元に一人の少年が現れる。三岩という人物の使いで来たという少年は、統也の祖父に受け取ってもらわなければならない物があると言う。
統也の祖父は三年前に亡くなっているということを伝えると、少年は遺産を相続した人に受け取ってもらいたいと言った。
50年前に祖父たちの間で交わされた約束。それに基いて譲渡しなければならいと少年は主張する。
その物とは少年自身のことだった。彼の名前は『アラタ』。自称、人間に最も近いアンドロイドだ。
仕方なくアラタを受け取った統也だったが、実はアラタにはある秘密があって――。

 ホログラムの天使が舞い、電子音に変換された賛美歌が流れる街を、統也はアラタと歩いていた。
 この時期の街を、統也は好きになれない。どこもかしこも浮かれていて、気持ちが悪い。ふわりと目の前を通り過ぎた天使の羽に、製薬会社の広告があるのを見て、さらに嫌な気持ちになる。隣を歩くアラタは、先程から何度も首を巡らせては天使の行先を目で追っていた。
「珍しいのか、あれが」
「はい、始めて見ました」
 その答えが意外で、統也は眉を上げた。
 この時期になればそこかしこに現れる広告付きの天使だ。有り難みの欠片もない。あれが本物でないことくらい、小さな子どもだって知っている。ありふれたホログラムだ。それを見たことがないというのが信じられない。
「お前、どういう生活していたんだ」
 無人島にでもいたというのだろうか。
「僕は、作られてから三年ですが、三岩の研究施設から外へ出たことはありませんでしたので、これらのホロを見るのは初めてです」
「へえ……」
 アラタはそっと瞬きをした。まつ毛が揺れるのを、統也はぼんやりと見る。
 唐突に、統也は理解した。
 ずっと不思議だったのだ。人間と違ってアンドロイドの眼球が乾くことはない。だから本来なら瞬きという動きは必要ないものだ。人間により近く見せるために、会話の途中でランダムに瞬きをするアンドロイドもあるが、アラタの場合はその頻度が高すぎた。
 意味があったのだ。
 アラタの瞬きはたぶん、何かのデータを呼び出したり書き換えたりする時に行われているのだろう。現にアラタは眼の筋肉を少し下げた。何かを懐かしんでいるような表情だ。