ホログラムの天使が舞い、電子音に変換された賛美歌が流れる街を、統也はアラタと歩いていた。 この時期の街を、統也は好きになれない。どこもかしこも浮かれていて、気持ちが悪い。ふわりと目の前を通り過ぎた天使の羽に、製薬会社の広告があるのを見て、さらに嫌な気持ちになる。隣を歩くアラタは、先程から何度も首を巡らせては天使の行先を目で追っていた。 「珍しいのか、あれが」 「はい、始めて見ました」 その答えが意外で、統也は眉を上げた。 この時期になればそこかしこに現れる広告付きの天使だ。有り難みの欠片もない。あれが本物でないことくらい、小さな子どもだって知っている。ありふれたホログラムだ。それを見たことがないというのが信じられない。 「お前、どういう生活していたんだ」 無人島にでもいたというのだろうか。 「僕は、作られてから三年ですが、三岩の研究施設から外へ出たことはありませんでしたので、これらのホロを見るのは初めてです」 「へえ……」 アラタはそっと瞬きをした。まつ毛が揺れるのを、統也はぼんやりと見る。 唐突に、統也は理解した。 ずっと不思議だったのだ。人間と違ってアンドロイドの眼球が乾くことはない。だから本来なら瞬きという動きは必要ないものだ。人間により近く見せるために、会話の途中でランダムに瞬きをするアンドロイドもあるが、アラタの場合はその頻度が高すぎた。 意味があったのだ。 アラタの瞬きはたぶん、何かのデータを呼び出したり書き換えたりする時に行われているのだろう。現にアラタは眼の筋肉を少し下げた。何かを懐かしんでいるような表情だ。
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